No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

Cross Talkクロストーク

AIはコーチの仕事を奪うのではなく、助けるツール

── 2020年は世界中がコロナ禍の中で困難な生活をしています。ゴルフの選手の心のありようや感情の変化を客観的にする技術の使い方は、このコロナ禍によって変化したでしょうか。

植村 ── 大きく変わりました。特にプロゴルファーは試合がなくなって、自分の仕事を失った状態です。メンタルも相当やられています。これは本当に深刻な問題で、プロゴルファーがバイトをしないと生きられないような状態です。「自分は来年以降まで続けられないから引退する」といった話をよく聞くようになりました。

下地 ── 私がビジネスをしている世界では、ネットを通じた会議が多く開かれるようになり、一緒に仕事をしているチームのメンバーの様子が分かりづらくなって困っています。カメラをつけずにネット会議に参加する人もいるので、元気なのかどうか分からない状態です。Empathは音声から元気な状態であることを判別できますから、そこに使いたいという引き合いをいただいています。

── なるほど、業界ごとに状況が違いますね。ただ、ゴルフとAIという一見かけ離れた世界が結びつくことで、様々なイノベーションが生まれる可能性も感じます。

植村 ── 下地さんのお話を聞いて、近い将来、人間がやっていたことが、どんどん機械化できるようになり、これまで見えなかった人の心の動きが見えるようになることに驚きました。ゴルフのレッスンの仕事がAIに置き換わり、自分の仕事がなくなるのではないかと、私も今、少しメンタルをやられている感じです。ゴルフのレッスンは実際に人の目で見るのがすごく大事だと思います。しかし、ミスを分析して、どのような練習をした方がよいのかアドバイスするのは、AIでも出来そうな気がするからです。

下地 ── おそらく仕事はなくならないでしょう。AIはあくまでも状態を判断するための情報を得る手段であり、アドバイスを考えるのには、スーパーバイザーである人間の存在が重要になります。その部分をシステム化して、「バーチャル植村コーチ」のようなものを作ることができるのかもしれませんが、それを作るためには植村さんのノウハウが欠かせません。プレイヤーも定型のアドバイスではなく、自分だけに向けて付け加えた一言をほしいのではないでしょうか。経験豊かなコーチに、AIから得た情報を基にアドバイスしてもらった方が説得力はありますから、まだまだゴルフのコーチは求められ続けると思います。

スポーツでのAIなどテクノロジー活用の可能性は大きい

下地 貴明氏

── 下地さんの目から見て、AIの応用分野としてスポーツの世界には、どのような価値があるのでしょうか。

下地 ── スポーツは、トレーニング中、試合中を問わず、極めて多くのデータを取得している世界だと見ています。特にトップスポーツになるほど、その傾向は高いと思っています。AIは、そうしたデータを価値あることに生かせる技術です。スポーツでのAIの活用は、今後、ますます加速していくことでしょう。

2014年に開催されたサッカーワールドカップブラジル大会では、IT企業であるSAPが支援したデータサッカーを実践したドイツが優勝しました。いかにデータを活用するかが、スポーツの勝敗を左右するケースは増えてくると思います。植村さんのお話を聞いて、メンタルな部分を解析して有効利用するためには、トレーニング中や試合中はもとより、普段の選手の生活の中でもデータを利用することで、これまでには考えられなかったような成果を上げることができる可能性を感じました。こうした技術は、勝負の世界に生きるプロに受け入れられるだけでなく、アマチュアの方々も大いに興味を持つと思います。

植村 ── 手つかずの育成法や選手の管理方法がまだまだあることを知って、とても興味深くお話を聞けました。これから、データの活用について、もっと考えてみたいと思います。

Empath K's Island Golf Academy

Profile

植村 啓太氏

植村 啓太(うえむら けいた)

K's Island Golf Academy 主宰 ツアープロコーチ

1977年生まれ。16歳からゴルフを始め、ツアープロを志し研修生やアメリカ留学を経験する。怪我によりツアープロの道を断念し、21歳からティーチング活動を始める。その後23歳の若さでツアープロと契約し、ツアープロコーチとしてデビュー。大場美智恵プロや服部道子プロをはじめ、現在まで多くのツアープロのコーチを担当する。2005年には自身が主宰する「K's Island Golf Academy」を東京都世田谷区のオークラランドゴルフでスタート。その後、メンバーシップアカデミーの「K’s Island Golf Academy代官山スタジオ」をオープンし、多くのアマチュアの指導にあたる。また、大阪にあるゴルフ&ボディスタジオ「GOLDIA」で、自身初のプロデュースを手掛ける他、2012年には、海外進出の第一歩となる「K’s Island Golf Academy Publica Malaysia」をマレーシアにオープンした。ゴルフ誌、ゴルフ番組をはじめ、ファッション誌やDVDなど幅広いメディアに出演し、ゴルフの魅力を伝えるとともに、ゴルフスクールの再生やプロデュース、インストラクターの育成にも力を注いでいる。

下地 貴明氏

下地 貴明(しもじ たかあき)

Empath CEO

1981年 香川県生まれ。2006年 早稲田大学教育学部卒業後、システムエンジニア、プロジェクトマネジメントを学び、経済産業省「情報大航海プロジェクト」への参画、「この指とまれ」の改築、運営業務に携わる。2011年にスマートメディカル取締役ICTセルフケア事業部長就任。音声気分解析技術「Empath」の研究・開発を行う。2014年 東京大学保健推進健康本部の受入研究員として、Empathを活用したメンタルヘルスアプリを開発。2017年、スマートメディカルからスピンオフしたEmpathの代表取締役に就任し、Affective Computing領域におけるEmpathのビジネス活用を推進している。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

Cross Talk

心のスポーツ、ゴルフはAIでどう進化するのか

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前編 後編

Visiting Laboratories

工学院大学 工学部機械工学科 スポーツ流体研究室

生物をまねて高速泳法を創出、バレーボールの最適なボールも実現 ~ 流体力学をスポーツに応用

第1部 第2部

Series Report

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

「発電所のダウンサイジング」で、エネルギーの効率的利用を可能に

第1回 第2回 第3回

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