No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── アリーナ会場で見られたような場のしつらえは、ストリーミングでも見られるのでしょうか。

プロプレーヤーを理解するのに、これは大切な点です。彼らにとってストリーミングの機会は非常に重要で、ただゲームを見せればいいというのではなく、いくつもの制作レイヤーを重層させています。観客にゲームの状況を伝えるビジュアルなオーバーレイ(被せ)があり、広告は背後に設置されたバナーやゲームの中に表示されます。コメンテーターのウィンドウやプレーヤーの顔を捉えたショットも設けられます。それらに加えて、観客のためのチャットが流れていることもあります。この場合のチャットは筋の通った会話ではなく、いわば観客の声援のようなものです。ですからライブストリーミングはメディア的な制作物と言っていいでしょう。ディレクターがいて、カメラも複数設置されています。当然、規模や種類によって違いはありますが、たとえ自宅から配信するような小規模なものでも仕掛けとしてのオーバーレイがありボットが使われていたりします。画面上ではたくさんのことが起こっていて、観客は多くの情報を処理するわけです。

── プロプレーヤーであれば、もはや一人ではなくディレクターや制作会社と共にストリーミングをやっているということですね。

ますますそうなっています。チームベースのプロプレーヤーであれば、チームメートがいてチームのキャプテンもいる。コーチがいることもあるでしょう。資金に恵まれているチームならば、特別な場所に住んで栄養士が付いているなどというケースもあります。もちろん、ソロであり続けるプロプレーヤーもいますから、こうしたサポートスタッフは多い場合もあれば少ない場合もあります。例えて言えば、サッカーチームのように大掛かりなサポートスタッフを抱えていることもあれば、オリンピックの選手のようにエリート的な訓練を受けつつ、昼間は別の職についているということもあるのと同じです。ですからいろいろです。ただ、ここ最近は多くのお金がeスポーツに流れ込んでいますから、大掛かりな方向に向かいつつあることは確かです。

2017年10月、ロシア・サンクトペテルブルクで行われた「カウンターストライク:グローバルオフェンシブサイバースポーツイベント」のメイン会場とチームのファン。
写真:Roman Kosolapov / Shutterstock.com
eスポーツイベント

eスポーツ・タイトルとなるゲームは?

── 人気が出るeスポーツのタイトルに共通した特徴は何ですか。

2通りの解釈ができるでしょう。まず、生来eスポーツ的であるというゲームはありません。いくらゲームの制作者たちがeスポーツのネクスト・ビッグシングにしようと目論んで開発しても、うまくいかないことはよくあります。また、eスポーツとしては人気があっても、アマチュアがプレーすると面白くないものもあります。例を挙げると、1999年ごろからある『カウンターストライク』は、eスポーツの対戦をしないアマチュアにも人気がありますが、なかなかうまくプレーできません。ところが、一方でこのタイトルは熟練の限界点が非常に高く、どんどん腕を磨いていくことができるのです。そのためプロが好んでプレーし、eスポーツの長寿タイトルとなっています。『スタークラフト』にも似たところがあります。また、家庭用コンソールを使ってプレーする格闘ゲームにも、eスポーツとしてぴったりな要素を備えたものもあります。もちろん、あまりに単純だと技巧を凝らす余地がなく発展することができないわけですが、eスポーツ専用というタイトルはないということです。はっきりした答えはないのです。要は、そのタイトルがeスポーツとしての強靭さを備え、トーナメントを生き延びて拡大していくものかどうかは、プレーヤーのコミュニティ自体が何年もかけて決めていくところがあります。ですから、トップダウンというよりはボトムアップに選ばれていくことと言えるでしょう。

── eスポーツとして人気が出るのは、必ずしもソフトウェア上最も複雑なタイトルとは限らないということでしょうか。

何をもって「複雑」というのかにもよるでしょう。私なりに言い換えると、そのゲームが人気を呼んでたくさん売れたとしても、eスポーツのタイトルになるとは限らない、ということです。プレーヤーが一人だけとか物語ベースのゲームは、eスポーツのタイトルにはなりません。一方、チームで撃ち合うようなゲームでも、コミュニティがリッチな複雑さや拡大していくだけの潜在力がないとみなせば使われません。また『カウンターストライク』のように、2つのチームが限られた場所を走り回っているだけのビジュアル的にはさほど驚きのないゲームであっても、その仕組みや戦う形式が好まれることもあります。

── eスポーツの発展に貢献したテクノロジーは何ですか。

最大のものはインターネットです。インターネットによって、近所のプレーヤーを超えて大きな戦いの場が与えられるようになりました。しかも、ただのインターネットではなく強靭なインターネットであることが重要です。それが証拠に、かつては同じアメリカでも遅延があるために東西海岸の間で戦うことはできませんでした。eスポーツが韓国で最も早く発展したのもそこが理由です。通信インフラに関わる政府の政策が、裾野でこうしたことを左右するのです。マシンのハードウェアそのものについては、一概に言えないところがあります。もちろんグラフィックス・カードが高速ならレンダリングやマウスの反応がよくなります。モニター技術の発展も重要です。モニターがCRTからLCDに変わった際、プレーヤーたちはグラフィックスの反応の違いに合わせて調整を迫られました。とは言うものの、eスポーツとは人間の技とコンピュテーションが織りなすダンスのようなものです。従来のスポーツでも、水着やボールなどのテクノロジーが選手たちを左右してきました。しかし、それらはプレーヤーのパフォーマンスに統合されてこそのものなのです。

── eスポーツと言うとデジタル・スクリーンが目立ってしまいがちですが、プレーヤーの身体性は核心的な要素なのですね。

目新しさに目が向きがちですが、コンピュータ・ゲーム自体でないところが大きな意味を持っているのです。スクリーン上では多くのことが起こっていますが、実はプロプレーヤーをプロたらしめているのは、その中で不必要なものは無視し、必要なものだけに集中できる点なのです。

── 今後はどうでしょうか。これからのeスポーツの発展に重要と思われるテクノロジーは何ですか。

私は未来学者ではなく社会学者で、退屈な回答しかできません。サスティナブルでユビキタスな通信インフラが何と言っても重要です。コンピュータはこれからもますます高速化し進化するでしょう。ただ、それはeスポーツの核心ではありません。人々は競技を好み、どんなゲームを与えてもそれを競技に使うでしょう。しかし、プレーヤーの裾野を広げより多くの観客を獲得するという点においては、配信と視聴を安定化させるインターネットインフラとプラットフォームが不可欠なのです。

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