No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

Series Report

大型化は運用の柔軟性を損ないユースケースを限定する

ところが働くクルマの大型化には、デメリットも伴う。一定以上にまとまった仕事がないと利用が困難で、小回りも効かず、柔軟な運用が困難な点だ。働くクルマの運用において、柔軟な運用が可能な点は極めて重要である。

実際、過去には、運用の柔軟性を理由に、それまで大型化し続けていた運送手段がダウンサイジングした例がある。もう知っている人も少なくなったが、宅配便サービスが発達する以前の1970年代まで、個人が遠方に荷物を送る際には、貨物列車で荷物も運ぶ「鉄道小荷物(チッキ)」がよく使われていた。鉄道小荷物を利用する際には、輸送元では駅まで荷物を持参し、輸送先でも最寄りの駅まで受け取りに出向く必要があった。輸送効率を考えれば、何両もの貨車を連結して走る貨物列車での輸送は極めて効率的だ。しかし、1970年代後半から宅配便サービスが始まると、個人の荷物の配送は、輸送効率では鉄道に劣るトラックを使った配送へと一気に変わった(図2)。理由は、輸送手段をダウンサイジングして柔軟な運用が可能な宅配便の方が、利用者にとってずっと便利だからだ。

[図2]輸送効率に優れた鉄道での物流は、柔軟性に優れたトラックでの物流に変わった
作成:伊藤元昭
写真:Adobe Stock
輸送効率に優れた鉄道での物流は、柔軟性に優れたトラックでの物流に変わった

クルマの大変革に向けて開発されているCASE向け技術を活用すれば、運用効率を損なうことなく、働くクルマをダウンサイジングして運用の柔軟性を高めることができる。なぜならば、車両ごとに操縦者を用意する必要がなくなるからだ。

しかも、コネクテッドにすれば中央管制によって、効率的な運用が可能になる。また、電動化すれば多数台を運用しても環境に与える負荷を最小限に抑えることができる。そして、シェアリングのノウハウは、必要に応じて必要な機能を持つ働くクルマを最適運用するために利用することができる。

そして、CASE向け技術を適用した働くクルマは、農機や建機、物流用モビリティとして理想的な特徴を備えた「働く自律型ロボット」へと進化する。ここからは、農業、建設、物流の各産業に向けて、働く自律型ロボットを開発する動きと、それぞれの産業に与えるインパクトを紹介する。

農業は大型機械による作業の自動化に向いていない

本来、農業は、大型機械を使った作業が向かない産業だ。なぜならば、作物も、それを栽培する環境も自然の産物であり、状態や形状が多様だからだ。形状や品質が規格化された工業製品ならば、機械で扱うことが容易だ。しかし、農業では、農地の形状は千差万別で、天候や地質によって農地の状態は日々変化し、しかも作物の形や生育状態には個体差がある。こうした違いがあると、機械を使って作業を自動化することは困難である。機械が大きければ大きいほどユースケースが限定されてしまう。

その他にも、これまで農業に使っていた大型農機は、様々なデメリットを抱えていた。まず、重量が重いため、せっかく耕して土に空気を取り込んだ農地を踏み固めてしまい、作物の生育を妨げていた。また、肥料や農薬を作物が植えられているところ以外にもバラ撒いてしまうため、必要以上にコストがかかり、環境汚染の原因にもなっていた。

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