宇宙が身近になれば、人の意識が変わる

── 宇宙ビジネスについては、どのような展開を期待していますか。

井田 ── 宇宙ビジネスが盛んになって皆がロケットをバンバン飛ばすようになるとスペースデブリなどはどんどん増えるだろうし、いろんな弊害も生じてくるのかもしれません。でも、それらを認識した上で新しい境地をどんどん切り拓いていく姿勢が大事なのではないでしょうか。

既存のものを便利にするという宇宙関連のビジネスもあるでしょうけれど、一般の人に何かこれまでにない新しい体験を提供できるものもいいですよね。特に、宇宙観光のような宇宙空間に人が出ていくというものには、人々の意識を変える可能性があると思うんです。例えば、私はこの夏にアメリカで皆既日食を見てきました。ほんの1分半の出来事でしたが、その1分半を体験する前と後の意識の違いというのはものすごいです。

2017年8月21日にアメリカで観測された皆既日食
©UPI/amanaimages

黒田 ── 私もちょうど取材の仕事で見に行ったんです。あれはもう、自分の網膜で捉えたものが一番美しいですよね。世界中から大勢の人が詰め掛けていて、遠くの方から順に日食がはじまると、こちらに向かってワーッという歓声がウェーブのように迫ってくるんです。

井田 ── どんな写真や映像も、その場にいて生身の体で見るという体験には敵いません。だから、宇宙へ実際に出るというのも、きっとすごいインパクトを人に与えると思うんですね。こうした宇宙ビジネスがどんどん開かれれば、それに連れてコストが下がってきます。宇宙飛行士だけではなく、普通の人でも「ちょっと宇宙空間に出かけてくる」ことができるようになると、人々の意識が変わっていくと思います。科学者の側としては先ほどの汚染問題のようにいろんな意見があるとは思いますが、私はどんどんビジネスを進めてほしいなという思いがあります。

── 最後に、宇宙飛行士を目指している黒田さんは、宇宙へ行ってどんなことをやりたいと思っていますか。

黒田 ── 宇宙という地球上とは全く違う別の環境で、自分にとっての当たり前のありとあらゆることを試してみたいです。水の動き１つ取っても、もちろん違うでしょう。宇宙に行くだけで、地球の日常では当たり前のことが「あれは奇跡的なことだったんだ」という風に感じられると思うんです。

地球の素晴らしさとか、太陽の光はいろいろな波長の光が合わさって白く見えていることとか、私たちが空気の振動によって鼓膜が震えるのを音と認識していることとか、自分の姿というのは祖先から脈々と受け継がれてきた遺伝子の発現であることとか。地球上のあらゆることは奇跡なものだと思っています。星空を見上げて「美しいな」と思う感性だって、代々受け継がれて今の私たちになっていると思うんです。だから、「地球というもの」「人類ということ」を宇宙から感じたいし、そこで感じたことを伝えていきたいと思っています。

Profile

井田 茂（いだ しげる）

1960年生まれ。東京工業大学教授。

京都大学理学部物理系卒。東京大学大学院地球物理学専攻修了。
東京大学助手を経て93年、東京工業大学地球惑星科学科助教授に就任。現在は、東京工業大学地球生命研究所教授。
著書『地球外生命体』『系外惑星と太陽系』『系外惑星ー宇宙と生命のナゾを解く』など多数。

黒田 有彩（くろだ ありさ）

1987年兵庫県神戸市生まれ。タレント。

お茶の水女子大学理学部物理学科卒業。
作文コンクールで入賞しNASAを訪問したことをきっかけに宇宙のとりこに。
宇宙飛行士の試験に必要となる専門分野での“実務経験”を「タレントとして宇宙の魅力を発信すること」と定め、JAXA宇宙飛行士試験の受験を目指している。
2017年4月から文部科学省国立研究開発法人審議会臨時委員に就任。
共書に『宇宙女子』がある。twitterアカウントは @kuroari_rtts