No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── 現在の開発状況と、今後の、実際に人が乗れる宇宙船へ向けた開発計画について教えてください。

我々は、先ずは無人機を高度100kmに到達させる計画です。現在は、その為の必要技術として、無人飛行技術の開発と新型エンジンの開発を並行して行っています。

これまでに、4種類のタイプの異なる小型飛行実験機を用いて、自動飛行、長距離遠隔操縦(FPV)、自動トラッキングシステムなどの無人飛行に関する要素技術の開発を行ってきました。現時点では、5km先の実験機を、モニタを見ながら操縦することが出来ます。

エンジン開発においては、PDEのロケットモードでの作動実験を先行して成功させ、その後、ジェットモードでの作動に成功しました。そして、今年7月に、世界初となる、ジェット/ロケットの切り替え実験に成功しました。

PDエアロスペース社では、開発対象に合わせて、必要機材(モータ機、ピストン機、ガスタービン機)を選定し、実験を行っている。写真は無人技術実証機のX03A
無人技術実証機のX03A
高速実証機のX02A
高速実証機のX02A

また、新型エンジンの性能が見えてきましたので、これに併せた機体の設計に入っています。エンジンも実験室レベルから実際に高度100kmへ到達させるための実用レベルへ引き上げる開発に着手しています。

スケジュールとしては、2019年4月、無人機にて、高度100kmへ到達、帰還。2021年8月、有人機にて、高度100kmへ到達、帰還。2023年12月、商業運航開始と考えています。

PDエアロスペース社の有人宇宙機のイメージ画像
提供:PDエアロスペース(株)/KOIKE TERUMASA DESIGN AND AEROSPACE
PPDエアロスペース社の有人宇宙機のイメージ画像
開発計画
無人機を先行開発して、無人機開発の途中段階から並行して有人機の開発にも着手。有人機の開発においては、無人機運用に生じた課題をフィーバックさせると共に、有人レベルの信頼性確認を行い、国内での機体認証を経て、2023年末での運用開始を目指す。
CREDIT: PDエアロスペース
開発計画

宇宙への想いを実現するための起業と経営

── 宇宙船を造るには「お金」も重要な要素です。資金調達や企業などからの投資を受けられるようになるまでの、経緯を教えてください。

資金調達には、いくつかの方法があります。ベンチャーキャピタルや投資家(エンジェル)からの出資だけではなく、銀行からの融資、助成金の活用、クラウドファンディング、スポンサード、コンテストの賞金などが挙げられます。

私の場合は、社会人勤めで1000万円を貯めて、これを資本金として会社をスタートさせました。創業後、いくつかのビジネスコンテストで優勝や上位入賞はしましたが、残念ながら日本のこの手のコンテストは、賞金が無い或いは少なく、開発を支える額ではありませんでした。ただ、コンテストに出ることで人脈は広がっていきました。その後、少しずつスポンサーが付き出し、支出の歯止めになりました。

しかし、人を雇えるほどの額は無く、長く一人の状態が続きました。少ない予算で進められたのは、実家に実験室があったことや、自身に研究開発に必要な経験と実験、工作のスキルがあったこと。さらにボランティアで企業や研究室、個人が参加してくれたこと、などが複合的に作用したからです。

── その後、H.I.S.、ANAホールディングスなどからの投資を受けられたわけですね。

ANAHD 片野坂社長が雑誌の取材で「将来は宇宙を飛べる会社になる」とコメントされているのをネットで見つけました。有人の宇宙機を検討しているのは、国内では弊社だけですし、弊社の機体はANAカラーですし、提案しない手は無いと、直ぐに資料を作って、問合せをしました。たまたま、少し前に一緒に仕事をさせて頂いた方に、問い合わせのルートを聞きましたら、その方自身が新規事業の検討をされている部門の方で、トントン拍子で話が進みました。とあるイベントの帰りに、片野坂社長に来訪もして頂きました。

ANAHD片野坂社長(左から2人目)
PDエアロスペース本社(有松) CREDIT: PDエアロスペース
ANAHD片野坂社長(左から2人目)

H.I.S. 澤田会長には、2009年のビジネスコンテストでお会いし、以後、スポンサーの筆頭として支援を頂いていました。ANAHD片野坂社長の記事とほぼ同時期に、澤田会長も雑誌の取材で、「宇宙ホテルと、そこへ人や物資運ぶロケット」についての発言がありました。そんな中で、ANAHD様からの出資検討が進み出したので、是非、同時出資をお願いしたい、と直談判に行きました。「今まで以上に厳しい評価に晒されることになる。覚悟は出来ているか」とのコメントと、出資OKの回答を頂きました。

── 機体開発と並行して、日本にも宇宙船が離発着できる空港、「宇宙港」を造ろうとされていますが、その動きについて現在どのような状況にあるでしょうか。

宇宙港の候補地として、いくつかの自治体から検討要請を頂いています。多くは、地方空港の利活用案の一つとして、です。沖縄県 下地島空港も、その一つで、宇宙港として使用する際に必要な要件や設備について、ヒアリングを受けていました。

下地島空港は、大型旅客機が離着陸できる3000mの滑走路と、南北にILS*7を備えた立派な空港です。また周囲が海に囲まれているので、開発環境としても最適です。さらに南北に民間用の飛行空域が高高度まで確保されており、宇宙への飛行も可能なため、国内での宇宙港候補の最有力と考えていました。

そのような中で、これまで同空港でパイロット訓練を行っていたJAL、ANAが相次いで撤退をしたため、県の財政事情がひっ迫、「下地島空港及び周辺用地の利活用事業に係る提案募集」が行われました。今から3年前、2014年のことです。

我々は、宇宙港事業を始めとして、宇宙ベンチャーのインキュベーション事業、宇宙旅行の訓練事業など、計7つの事業を順次スタートさせていくプランで提案をしました。しかし、最終候補まで残ったものの、実現可能性を理由に、採択には至りませんでした。

しかし、今年9月、同空港の利活用事業に関して、追加募集が行なわれ、弊社もリベンジで、これに再応募しました。3年前とは、弊社を取り巻く環境が大きく変わっており、実現の可能性は大きく前進していると思っています。また今回の提案では、宇宙港事業の他、厳選2事業に絞り、前回よりも、かなりコンパクトな提案としました。現在、審査が進んでおり、来年1月にプレゼン、2月に採否が決定します。

[ 脚注 ]

*7
ILS: Instrument Landing Systemの略で計器着陸装置のこと。着陸のため進入中の航空機に対し、指向性のある電波を発射し滑走路への進入コースを指示する無線着陸援助装置。
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