No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── 鉱山探査というのは、小惑星での採掘の可能性を見極める作業ですが、それはどのように行われるのでしょう。カメラを利用するのでしょうか。

[図3] 宇宙船プロスペクターXのイメージイラスト
(C)Deep Space Industries
宇宙船プロスペクターXのイメージイラスト

宇宙船には多様なセンサーを搭載でき、光学的分析を行ったり、写真を撮ったりできます。また、小惑星自体の表面だけでなく、化学的組成まで検知できる高度なスキャナーも搭載可能です。スキャナーを使えば、素材として柔らかいのか硬いのかといったことがわかります。さらに、小惑星に着陸して土壌サンプルを採取し、それを宇宙船内で分析する機能も備えています。

── 小惑星の物質的特徴については、現時点でどの程度わかっているのでしょうか。

金属質や岩質小惑星は、いくつも地球上に落下しているため、かなりのことがわかっています。しかし、炭素質コンドライトについては、まだまだ研究が必要な状態です。ですから、当初のわれわれの目的は、多様な炭素質コンドライト小惑星へ到達することで、その材質を分析し知財を得て、次の採掘の戦略を立てることになるでしょう。採掘した小惑星の資源は、地球近くまで持ち帰ります。

── いったいどれだけの小惑星があり、そこにどれだけの採掘資源があるとお考えですか。

膨大です。NASAは、太陽系の全小惑星から採掘できる資源は、700京ドルほどの価値があるとしています。

── 採掘はどのような方法で行われるのでしょうか。DSIでは宇宙船が小惑星をつかんでいるようなイメージイラストを発表していますが、マニピュレーター*1のような機械を利用するのでしょうか。

[図4] 採掘のイメージイラスト
(C)Deep Space Industries
宇宙船プロスペクターXのイメージイラスト

その部分は、企業秘密です。小惑星の性質によって採掘方法が変わり、それぞれに応じた戦略を立てているという以上は、詳しくお話しできません。DSIのチームには、世界有数の惑星科学者たちがおり、5年をかけて金属質、岩質、炭素質コンドライトの全ての小惑星で採掘可能なシステムを設計してきました。その技術はすでに特許申請をしています。

── サイズはどうですか。扱える小惑星の大きさには制限がありますか。

基本的には制限はありません。NEA(地球近傍小惑星)と呼ばれるかなり大量の小惑星が地球近くまでやってくるわけですが、そのどれを採掘対象にするのかという選択も、戦略の重要な部分です。往復するのには燃料を消費しますから、遠いものより近いものの方がいい。そしてもちろん、ミッションは短期間の方が望ましいでしょう。現在、NASAが行なっているベンヌ小惑星の岩石サンプルを採集するミッションは7年ですが、ビジネス的には7年は長すぎます。したがって、利益を出すには、近い小惑星で採掘がしやすいものを選択する必要があるのです。

── 地球近くまでやってくる小惑星については、すでにかなりの情報があるのでしょうか。

いいえ。わかっているのはほんの一部、5%程度でしょう。われわれも、どの小惑星が地球近くにくるのか、どれが地球に衝突するのかといったことを調査する惑星保護の分野に非常に興味を持っています。大きな小惑星が地球に衝突するとなると、その影響はシリアスなものになりかねません。また、小惑星のデータベースがあれば、採掘対象を広げることも可能ですし、DSIもそこに貢献することができます。

── 小惑星はどのようにして発見するのでしょうか。

ビル・ミラー

小惑星は非常に暗く見えにくいので、最善の方法は宇宙望遠鏡を使って探すことです。すでにこの分野に進出している企業もあり、今後数年の間に各国の宇宙関連機関や企業が宇宙望遠鏡を発射するはずです。

── 宇宙ビジネスに進出する企業が増えており、各社がさまざまな発見をして新情報を得ます。こうした情報は、公平に共有されると思いますか。

面白いご質問ですが、答えはわかりません。アメリカでは、2015年に新しい法律が成立し、私企業が小惑星で採掘をした場合、採掘した資源は所有できるが、小惑星そのものは所有できないと定めました。同法は国際漁業法を元にしています。漁船は、魚は所有できても公海は所有できない。情報にも同じように思える部分と違うと思える部分があります。例えばもし政府によるミッションを請け負ったのならば、そこで得た情報は政府に属す。一方、企業が自分で資金を出し、リスクを負ってミッションを遂行した場合は、そこで得た知財はその企業の所有になる。公表するかもしれませんが、自社で秘匿するかもしれない。それは、内容にも依るでしょうし、いずれ議論が起こる部分でしょう。

── いかにも未踏の領域という感じですね。

地球での採掘と違いはないでしょう。もし、プラチナや金の鉱山がありそうだということになれば、その地を所有する企業が試しに掘ってみるけれども、その内容は公表しません。それはビジネスだからです。実際、小惑星での採掘が国家事業でなく、企業によるビジネスだという点は重要でしょう。というのも、国家事業であれば、時々の政権によって方針がコロコロと変わるからです。政府とパートナーを組むことは非常に大切ですが、自社をビジネスとして成り立たせることはより重要だと考えています。

[ 脚注 ]

*1
マニピュレーター:ロボットハンドやロボットアームのような、人間の手先に似た作業を行う機械装置
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