No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── 小惑星での採掘の話に戻ります。DSIの宇宙船はかなり小型ですが、それでも採掘作業が可能なのでしょうか。

小惑星での採掘の方が月や火星と比べて理にかなっているのは、その点です。小惑星にはほとんど重力がありません。しかし月であれば、重力に引かれながら月面に着陸し、採掘後は月の重力圏外に出なければならない。燃料もかなり必要になりますし、リスクも高い。ところが、小惑星では大量の資源を採掘しても、持ち帰るのに巨大なロケット・エンジンは不要です。時折軌道修正は必要になるとしても、重力がないので、わずかな推力で地球に向かって進めます。ですから、小惑星は太陽系の中でもっともアクセスし、採掘しやすく、材料を持ち帰りやすい場所なのです。しかも小惑星は、地球のように、核、クラスト、地殻による多層構造ではなく、単一物質で構成されていると思われます。

── 小惑星での採掘量は、どの程度になるのでしょうか。

ひとつ共有できる数字があります。それは、直径150メートルの炭素質コンドライト小惑星の場合、全ての水分を採掘すると、その価値は1250億ドルにもなるというものです。この数字は、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社という、ロッキード・マーティン社とボーイング社による合弁事業である打ち上げ会社が、DSIから燃料を宇宙で買うためにつけた値段です。直径1キロメートルにも及ぶ小惑星もありますから、そうなるともっと大きな売り上げになります。

── 先述の4ステップでは、採掘の後、処理と製造が続きますが、処理とは、採掘した資源を利用可能な素材に処理するということですね。それを買う顧客は誰になりますか。つまりその素材は何に利用されるのでしょうか。

採掘する水が燃料になること、PGMが地球では希少になっていることは、すでに申し上げました。それ以外では、宇宙に大きな構造物を建設しようとしているメイド・イン・スペース社のような企業があります。メイド・イン・スペース社はすでに国際宇宙ステーションで3Dプリンターを稼働させており、DSIではそうした企業に原材料を供給することも照準に入れています。また、採掘資源の処理についての知識を深めていけば、DSI自身が垂直統合の製造業に参入する可能性もあるでしょう。採掘した水、燃料、酸素、原料などの処理から製造まで、宇宙で行うわけです。ただし、これはもっと後になってから検討するべきことです。

── 同じように小惑星での採掘を計画している会社に、プラネタリー・リソーシス社があります。競合する同社に対して、DSIにはどんな強みがありますか。

DSIは、すでに5年半をかけて小惑星を分析し、採掘の戦略を練り、推進システムや宇宙船を設計してきました。その先行する強みに加えて、惑星科学、ロケット科学、ロケット・エンジン、法律、規制といった、小惑星鉱業に絡む専門家を全て抱えています。たとえば、アメリカで最も優れた宇宙弁護士も、DSIのチームメンバーです。

── 宇宙弁護士ですか。

そうです。彼は、アメリカ弁護士協会の宇宙委員会を率い、先述した小惑星の法案通過でも中心的役割を担った人物です。

── プラネタリー・リソーシス社は、採掘に関してのアプローチが異なるのでしょうか。

同社もDSIも詳細を明らかにしていませんから、それは不明です。ただ、言いたいのは、プラネタリー・リソーシス社にもぜひ成功してもらいたいということです。小惑星の数は膨大で、採掘できる資源は無尽蔵にあります。そして、人類はこれから宇宙で様々な活動を行っていく。それをたった1社で賄うことはできません。プラネタリー・リソーシス社とは競合関係にありますが、われわれは資源を奪い合う必要はないのです。

── ただ、小惑星での採掘を進めるには、その資源を利用する市場も育たなければなりません。その歩調は合っていると思いますか。

ビル・ミラー

はい。宇宙で施設などの建設を行う、3Dプリンティングの企業はすでに複数あります。また、ロケットで打ち上げる人工衛星は、サイズもアンテナの大きさも限られますが、これを宇宙で建設すれば大きさの制限はほぼなくなります。

宇宙に巨大なアンテナを設置すれば、通信のためのパワーも節約できますし、宇宙で太陽熱を利用することも可能です。そして、宇宙で集めた太陽エネルギーを、地球に供給しようと考えている人々もいます。DSIは、こうした企業に原材料を提供できるのです。

さらに、人類を宇宙に住まわせようという動きは、どんどん高まっています。ジェフ・ベゾス氏の目標は、月の手前の宇宙空間に100万人の住人を送ることです。先だってのスペースX社のロケット発射は、その先ぶれと言えます。今後、移住であれ、ツーリズムであれ、建設や製造であれ、宇宙における人間の活動は激増するはずです。

もし、イーロン・マスク氏が宇宙船を火星に送ろうとするならば、現在の技術では往復のための燃料補給が5回必要になります。そのために補給ロケットを地球から送るのではなく、宇宙でわれわれの燃料を買えばずっと安くなる。DSIは、宇宙空間で商売をする最初の企業になり、顧客企業の宇宙での活動コストを効果的に削減するビジネスを展開したいのです。

[図5]宇宙空間での燃料供給イメージ
(C)Deep Space Industries
宇宙空間での燃料供給イメージ
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