No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── 現在DSIは、先述の「コメット」を他社に売って収入を得ています。この推進システムは、他社ではどのような目的に使われているのですか。

モルガン・スタンレー社は、2040年までには人工衛星が2万基に増えると予測しています。人工衛星には、軌道から外れたり、機能停止して宇宙のゴミになったりといった問題が生じますが、われわれの推進システムを利用すれば、軌道の修正や、稼働期間の延伸が可能です。また、デブリ(宇宙のゴミ)を衛星軌道外に押し出すこともできます。コメットは水だけを燃料にするというユニークなエンジンで、すでに7件の特許を申請しています。

── プロスペクターの発射を2020年に計画されているとのことですが、その後のステップは、どのように進みますか。

プロスペクターがもたらす探査内容によって、その後のタイムラインは変わってきます。資源の処理方法を開発したり、計画を見直したり、宇宙船を送って採掘実験を行ったりもするでしょう。また、宇宙市場の動きによって、開発を加速化させる必要も生じるかもしれません。ですから、計画は常に流動的だといえるでしょう。その前提でお話しすると、2020年の探査後には3年間で6回のミッションを遂行する予定です。理想的に行けば、その後10年以内に採掘が行われるでしょう。採掘と処理は並行して行われますが、製造については、当初は自分たちでは行わず、原材料の供給者に徹する予定です。

── そもそもDSIはどんなきっかけで創業されたのでしょうか。

数人のビジョナリー*2のグループが、宇宙へ資源を送るコストがあまりに高いと気づいたことがきっかけです。彼らは、これから宇宙での人間の活動が増えることを確信していました。そして、いろいろな可能性を検討した結果、小惑星の採掘が最も資源供給に適しているという結論に達したのです。それから3年間研究開発を行い、2年半前にコンセプトは十分に実現可能であるとして、宇宙船開発チームを雇いました。現在、社員は20人です。

[図6]THINK SMALL:衛星のサイズ比較。左2つがDSIの宇宙船
(C)Deep Space Industries
THINK SMALL:衛星のサイズ比較

── 御社のこれからの課題は何ですか。

宇宙空間を拠点にする企業はこれまでありませんでした。DSIの宇宙船開発チームは、これまで合計20基の宇宙船を地球軌道に飛ばしましたが、一度たりとも失敗していません。これは経験豊かなチームである証です。ただ、宇宙空間での活動には、打ち上げとはまた違った困難があります。たとえば、通信、ナビゲーション、制御、放射線などの問題です。なにせ、無線信号を送っても、届くまでに20分もかかるような遠距離ですから、宇宙船はある程度自律的に決定を下せるようにしておく必要があります。もちろん、我々の資源を買う宇宙での市場がタイムリーに育っていくことも必要です。しかし、我々はたとえそれに10年の年月がかかっても、もちこたえるだけのビジネス戦略をもち、そこまで収入を上げていくためのロードマップを立てているのです。

ディープ・スペース・インダストリーズディープ・スペース・インダストリーズ

[ 脚注 ]

*2
ビジョナリー:将来を見通した先見の明がある人々
ビル・ミラー

Profile

ビル・ミラー(Bill Miller)

ディープ・スペース・インダストリーズ社(DSI)CEO。
シンシナティ大学で電気工学とコンピュータ工学を専攻。同大学大学院とジョージア工科大学大学院で電気およびコンピュータ工学を修める。大学院生時代にコンピュータ通信を扱うIntercomputer Communications社を創業し、成功させて売却。その後、デジタル通信会社で副社長やCTOを務めた。その後、夫婦だけで4年間の航海に出発し、クルーなしにニューヨークからトリニダード島までの2万マイルを航海した。帰国後、デルタ航空のパイロットになり、国内線、国際線のジェット機の操縦桿を握った。宇宙には幼い頃から関心を持っていたため、近年は新しい宇宙ビジネスに投資を行っており、DSIもその1社だった。そうした縁もあり、2017年1月CEOに就任。シンシナティ大学で電気工学とコンピュータ工学を専攻。同大学大学院とジョージア工科大学大学院で電気およびコンピュータ工学を修める。

Writer

瀧口 範子(たきぐち のりこ)

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。
上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。雑誌社で編集者を務めた後、フリーランスに。1996-98年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピューター・サイエンス学科にて客員研究員。現在はシリコンバレーに在住し、テクノロジー、ビジネス、文化一般に関する記事を新聞や雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』(TOTO出版)『にほんの建築家:伊東豊雄観察記』(TOTO出版)、訳書に 『ソフトウェアの達人たち(Bringing Design to Software)』(アジソンウェスレイ・ジャパン刊)、『エンジニアの心象風景:ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会 共訳)、『人工知能は敵か味方か』(日経BP社)などがある。

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