No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載01

デジタル時代で世の中はどう変わるのか

Series Report

組み込みシステムが拡大、世の中に浸透

このため、半導体集積回路はデジタル技術と共に進んできた。その進化の中でもインテル社が発明したマイクロプロセッサとメモリの役割は最も大きい。この二つがあったからこそ、半導体とコンピュータが異常と言えるほどのスピードで進展してきたのだ。そして、そのコンピュータ技術は、メインフレームやミニコン、パソコンといった「コンピュータ」から、コンピュータではない「組み込みシステム」へと発展してきた。組み込みシステムとは、コンピュータではないのに、コンピュータと同じCPUやメモリなどから構成されるシステムで機能を実現するものを指す(図3)。確認しておくと、コンピュータとはソフトウエアを取り換えたり追加したりするだけで、様々な機能を実現するマシンである。スマートフォンが、アプリを取り込むだけで機能を追加できるのも、コンピュータだからだ。

[図3] コンピュータシステムの基本
プロセッサ(CPU)やメモリがあり、共通バスでつながれたコンピュータ構造と全く同じ仕組みを使いながらコンピュータではないモノ(製品など)を組み込みシステムと呼ぶ
作成:津田建二
コンピュータシステムの基本

身近な話として、電気炊飯ジャーも実はコンピュータで制御されている。コンピュータを極限まで小さくしたものがマイコンと呼ばれる半導体チップだ。このIC(集積回路)が、おいしいご飯を炊く手順や火加減をプログラムしている。いわゆる「はじめちょろちょろ、なかぱっぱ」と呼ばれる、おいしいご飯の炊き加減をマイコンにプログラムすると、その通りに電気炊飯ジャーのヒーターが働く。だからいつ炊いても同じクオリティのご飯が食べられるのだ。つまり、炊飯器でさえも、おいしいご飯の作り方をソフトウエアで指定してあるコンピュータシステムの一つなのだ。

デジタル化の波は、オフィスや社会、人間の活動まで、これまではコンピュータではできないと思われていた業務にも押し寄せてきた。残業せずに決まった時間内で仕事を終わらせるようにする、売り上げが上がるような活動手順やサービスを提供するといったことが、デジタル化により可能となる。人間の活動を、センサーやマイコンのインターフェース回路で制御するというわけだ。

例えば、社員のIDカードに活動量を表す加速度センサーやジャイロセンサー、さらには赤外線センサーやカメラなどを埋め込んでおき、その動きを常に無線で中央のサーバに送っておく。もし机でずっと仕事をしていたとしても、加速度やジャイロなどの慣性センサーからは背伸びをしたりお茶を飲みに行ったりというわずかな動きが、赤外線センサーからは誰かと話をしていたことなどがわかる。日立製作所はこうした人の動きを分析し、オフィスの生産性を推定できるシステムを作っている。それによると、楽しく仕事している部署の方が、そうではない部署よりも生産性が高いという結果が出ている。

また、生産工場では作業員の動きを把握して、作業台やベルトコンベアからの距離を最適化したり、動ける範囲や作業台の高さを最適化したりするといった、最も作業効率の高い状況を可視化できるようになる。実際に工場を設立する前に、作業員の動きを3次元シミュレータで模擬しておくと、効率の良い工場を設計できるのだ。

工場に限った話ではない。例えば、鉄道の駅員がどのように動いているか。その視線のデータや活動データなどから、駅員の最適な配置や仕事の割り当てなども見える化できる。スーパーマーケットの店員の配置も、シミュレーションしたり可視化したりすることで、売り上げ向上につながる配置を求められるようになる。

RPAもデジタル化を支える

デジタル化は、コンピュータというハードウエアだけに限らない。ソフトウエアで構成されたロボットも、オフィスでの作業に使われはじめている。例えばRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれるソフトウエアロボットは、エクセルやワード、pdf、テキスト形式などで書かれた文書を、エクセルの表にまとめることができる。あらかじめエクセルのどの枠にどのようなテキストを入れるのか指定する必要はあるが、決まった手順の作業ならロボットに代行させることができるのだ。

また、顧客からの注文を受け付ける作業や、その後のメールを出す作業もロボットが代行できる。人間がオフィスで行っている仕事のなかには、このような決まりきった作業が少なくない。RPAを利用することでオフィスの作業を減らし、人間はアイデアを生み出す仕事にシフトさせたことで業績を上げた企業は多い。

ソフトウエアロボットを含めたデジタル化は、これまで人間にしかできないと思われていた作業にコンピュータを導入することで実現した。すでに工場の機械の多くは自動化され、人間の作業はロボットに置き換えられている。しかし、コンピュータ化が遅れていたのは、事務作業をはじめとするホワイトカラーの業務だったのである。

人間の事務作業にロボットを使うようになった背景には、近年ある新入社員が過労により自殺したという問題がある。この事件により、企業の経営者は本気で業務改革を標榜するようになった。これまではノー残業デーを設けるだけだったが、これでは肝心の仕事量が減らない。RPAを導入した企業のほとんどが、トップダウンで業務の見直しや改革に取り組んでいる。

RPA導入による業務改革は、極めて効果が大きい。例えばソフトバンクは約1年前から導入しており、導入した部署全体で1か月当たりの残業時間は9000時間減ったという。減った残業時間を新しいアイデアを具現化する時間に充てればモチベーションが高まり、仕事の生産性も上がる。

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