No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載01

デジタル時代で世の中はどう変わるのか

Series Report

センサーを安く作る技術は、実はiPhoneが先鞭をつけた。画面の上下を左右に回転したり、歩数計や高度計などのヘルスケアのデータを取ったりするのに、センサーは使われている。また、音声認識の認識率を高めるため、ノイズキャンセラ用のMEMSマイクロフォンを3個/台設置するようになっている。しかし、国内の大手半導体メーカーはMEMSを毛嫌いしてこの市場に入らなかった。日本では唯一のアナログ半導体メーカーである新日本無線は、年間1億個もMEMSマイクを生産している。これだけMEMSセンサーを量産し低価格で売れるようになったのは、iPhoneが使ったからだ。図5はMEMSマイクロフォンの例である。

こうしたセンサーからの信号を拾って増幅するアナログ回路やフィルタ回路、さらにはA-D変換器などのアナログ回路も、デジタル化には必要となる。MEMSの信号をアナログのまま出力する製品やデジタルに変換して出力する製品もある(図6)。ここに日本のエレクトロニクスメーカーが活躍する余地があるのだ。

[図6] MEMS加速度センサーにアナログ回路を集積したチップ
出典:Analog Devices
機械の故障を予知するためのさまざまな状況

センサーからのデータを収集後、デジタル化して保存し、相関分析*4や多変量解析*5などの処理を施すことで、生のデータが意味のある情報に変わる。このデータ処理には従来ならモデルを立て、実際の結果とシミュレーションモデルが合致しているかのチェックを行い、ずれていれば一般的な経験値で補っていた。最近では、AI(機械学習やディープラーニング)を使ってセンサーデータをモニターしておく。時間の経過によって大量のデータが生まれるが、それを正常な傾向を示すデータと定義しておけば、そのパターンから外れるデータが現れた場合に、それは異常と判断できる。

良い人間が良いAIを創り出す

こうした判断は、まるでコンピュータが自分で行っているように見えるかもしれない。しかし、人間がしっかり、何が正常で何が異常なのかをコンピュータに学習させているのである。つまり、デジタル化でコンピュータが自律システムになると言っても、やはり人間が教えなければならない。AIの導入やデジタル化で人間の仕事が奪われる、といったネガティブな主張を見かけることもあるが、残念ながらAIをコントロールするのはやはり人間なのである。

ただし、人間一人ひとりが違うように、AIも一つひとつ異なる。それは何を学習させるかによってAIの知識が変わっていくためだ。つまり、人間に有害なことをAIに教えれば、有害なAIになる。社会の役に立ち人間に幸福をもたらすような善いことを教えれば、AIが人間の害になることはない。連載最終回では、デジタル化の別の局面である、ウーバー化について解説する。

[ 脚注 ]

*4
相関分析:
二つの変数の関係を記述する分析方法。例えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」の場合、風速と桶屋の売り上げに関係があることを定量的に示したもの。
*5
多変量解析:
多数の変数からなるデータを統計的に扱う手法のこと。温度や加速度、湿度、圧力など多くのセンサーからのデータを解析するのに使う。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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