No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載01

デジタル時代で世の中はどう変わるのか

Series Report

旅行業界も影響

また旅行業界も、エアビーアンドビー(Airbnb)というアプリによって大きな影響を受けている。エアビーアンドビーもウーバーと同様、宿を貸す側と借りる側双方が登録する必要があるアプリだ。そして、このアプリの場合、宿を貸す側はホテルや旅館ではなく、一般の住宅である。従来の日本の法律では、一般の住宅に有料で他人を宿泊させることは認められていなかった。ところが、2018年6月から施行される「住宅宿泊事業法」(新法民泊)では、住宅の一部を有料で貸し出すことができるようになる。

このアプリによって、安価な旅館やホテルは打撃を受けることになる。ただ、宿泊施設は高級ホテルからカプセルホテルまで多種多様にあるため、日本ではエアビーアンドビーは、ウーバーほど拒絶反応は少ないようだ。ただし旅行代理店は大きな影響を受けるだろう。

ウーバーは定着

こういったウーバーやエアビーアンドビーといったアプリの開発企業は、これまで全く関係のなかった業界に大きな影響を及ぼすことになった。ウーバーはタクシー業界を戦々恐々とする一方、それを受け入れない国や地域は運輸面で大きく遅れてしまう恐れが出ている。エアビーアンドビーは民泊を組織化することで、旅行業界や旅館・ホテル業界に大きな影響力を持ち始めている。

ウーバーはアメリカのカリフォルニア州では定着しており、むしろタクシーを捕まえる方が今は難しくなりつつある。現実に、2017年2月当時のシリコンバレーでタクシーを利用するには、訪問先で呼んでもらうか、高級ホテルで呼んでもらうかしか手段はなかった。その代わり、ウーバーのアプリは出会った人のほとんどがインストールしていた。普段は自家用車に乗って通勤する人も、飛行場へ行く、飲みに行くなどクルマを使えない状況を想定してアプリを入れている。

ウーバーのようなカーシェアリングビジネスは、中国でも普及している。元々中国では、アメリカのアプリやハードウエアを受け入れるのではなく、できる限り自国で内製化するような政策が取られてきた。Googleに対する百度(バイドゥ)や、Twitterに対する微博(ウェイボー)、LINEに対する微信(ウィーチャット)など、ほぼ同機能のウェブサイトやアプリがある。ウーバーも例外ではなく、滴滴(ディディ)や快的(クワイディ)といったアプリが内製されている。

業界間の境界があいまいに

ウーバー化の波は、さまざまな産業界の境界線があいまいになっていることを物語っている(参考資料2)。アプリ開発企業でも、タクシー業界や旅行業界に進出できることをウーバーやエアビーアンドビーが教えてくれたのだ。逆に既存の企業は、デジタル企業の侵略に備える必要があるだけではなく、バリューチェーンを変革して自社の価値を高めるように努めなければならない。

例えば、フィットネス企業のフィットビット社は、家電デバイスとヘルスケアを融合させたブレスレット型ウェアラブル活動量計を開発したし、バイオ化学企業のモンサント社は、農家が作物の収穫高を最大化させるためのリアルタイム分析ツールを作り、「データに基づく農業」の実現に取り組んでいる。また、軍需企業のロッキード・マーティン社は、ゲノム解析企業のイルミナ社と提携し、個人個人に合わせた健康管理ソリューションを開発していると、「IBM C-Suite Study『境界線の再定義』、2015年版」(IBM社がCEOやCFO、CIO、COOなど、いわゆるCクラスと呼ばれる経営層を対象として調査したレポート)の中で述べている。

半導体業界にもウーバー化の波

デジタル企業の侵略は半導体業界でも起きており、グーグル社やアマゾン社は自社で半導体チップを開発している。グーグル社は元々、検索サービスを提供する企業として出発したが、検索サービスを続けるうちに、膨大な言葉のデータが溜まってきた。そして、一つの言葉から類似の言葉、類似の意味などへ派生していくことを利用し、機械学習、ディープラーニングへと発展させ、今日のAIブームを創り出してきたのだ。言葉を検索するには従来のGPUやプロセッサチップを使うよりも、機械学習やディープラーニングによる検索に向いた専用の半導体チップとして、TPU(テンソルプロセッシングユニット)を用いるほうが効率はいい (図2)。このためTPUチップの消費電力は従来のプロセッサよりも1桁小さくなった。

[図2] グーグル社が開発したAIチップTPU
出典:Google
コンピュータシステムの基本

機械学習・ディープラーニングに向いたAIチップは、グーグル社以外にもIBM社が開発しており、人間の神経ネットワークを模倣したニューロモルフィック半導体と呼ばれている。これらは消費電力が極めて小さい。

また、ネット通販のアマゾン社は、イスラエルの半導体メーカーのアンナプルナ社を買収した。これにより、ネットワークのゲートウェイ半導体を設計できる能力を手に入れ、最近はAIチップも開発を進めている。電気自動車メーカーのテスラ社もAIチップを発表しており、AI半導体チップも開発している。

フェイスブックは、インテル社のチップを使ってAIエンジンを設計しようとしている(参考資料3)。インテル社のニューラルネットワーク専用チップは、同社が2016年に買収したナーバナ社が設計したものだ。

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