No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

宇宙太陽発電衛星から送電

ここまでの2方式は、既に実用化に向けた取り組みが進んでいる技術である。そして、ここからの2方式は、ワイヤレス給電のさらなる使い勝手向上に向けて技術開発が進められているものである。

「電波受信方式」は、電磁波を送電の媒体に活用するものだ*6。送電側を流れる電流で電磁波を発生させ、受電側のアンテナでそれを受信し、整流回路で直流電流に変換する。前回解説したエネルギーハーベスティングの中で、テレビ電波塔からの電波を電力として回収した例を紹介した。この例は、見方を変えれば、電波受信方式のワイヤレス給電技術の一種とみなすことができる。

この方式のメリットは、送電効率の低下が許されるのならば送電距離を数万kmにも伸ばすことができる点だ。その一方で、送電可能な電力は数mWと微弱であり、送電効率も極めて低い。これは、送電中に電磁波が広く拡散してしまうからだ。実用レベルでは、ICカードのFeliCaやRFIDへの給電手段として、近距離で送電効率はよくないが一部使われ始めている研究開発レベルでは、送電距離の長さを生かして、宇宙太陽発電衛星からギガワット(GW)クラスの電力を数万km先の地上に送るための技術の候補として研究が進められている(図3)。ただし、現時点で技術的なハードルは極めて高く、実用化を語るためには何らかのブレークスルーが必要である。

[図3] 経済産業省が検討した宇宙太陽光発電システムのイメージ図
出典:一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構
経済産業省が検討した宇宙太陽光発電システムのイメージ図

「電界結合方式」は、対向配置した電極間に発生する電界を送電の媒体として活用するものだ。送電側と受電側にそれぞれ電極を対面させて、コンデンサを形成し、一方の電極に高い周波数で電気を流すと相手側電極にも電気が流れる現象(この現象を高調波電流と呼ぶ)を利用して送電する。この方式の最大のメリットは、位置ズレの影響を受けにくい使い勝手のよさにある。送電効率も最大約90%と高い。その一方で、送電距離は数cmまでと短い点が欠点である。

同じ方式にもいくつかの技術標準がある

前述したように、ワイヤレス給電は送電側と受電側が同じ技術仕様に沿っていないと使えない。このため、ワイヤレス給電技術では標準化が盛んに進められている。

標準化の動きが最も早く進んだのが、モバイル機器への充電である。まず、電磁誘導方式を推進する業界団体「Wireless Power Consortium(WPC)」が発足し、2010年に標準規格「Qi(チー)」が実用化された。その後、Qiは、2014年には磁界共鳴方式の技術を一部取り込んで、送電距離を7mmから45mmへと長くした「Qi v1.2」にバージョンアップしている。

Qiは、AndroidをOSとしたスマートフォンの多くに採用され、2017年にはApple社の「iPhone 8」と「iPhone X」にも採用された。また、先行して実用化されたのは低電力向け仕様である最大受電電力5Wの「Qi Low Power」だが、2015年には15Wでの伝送仕様「Qi Middle Power」などの規格が公開されている。これによって、ノート型パソコンなどの充電にも適用できるようになった。WPCは、将来的に、もっと離れた距離で120Wの送電を可能にすることを目指しているという。

また、AirFuel Alliance*7が標準化活動を進める電磁誘導方式の「AirFuel Inductive」と磁界共鳴方式の「AirFuel Resonant」という規格もある。AirFuel Inductiveは、Qiと同様に電磁誘導方式であるが、送電で使用する周波数が微妙に異なる。コイルの共通化は可能だが、規格自体に互換性はない。

EVシフトへの準備が着々

EVの充電用途には、磁界共鳴方式を中心に標準化が進められている。アメリカの自動車や航空機関連の標準化推進団体であるSociety of Automotive Engineers(SAE) Internationalは、充電時の電力が異なる3種類の規格を定めた。

乗用車の普通充電に用いる3.7kWの「WPT1」、タクシーなど公共性のある乗用車の普通充電用の7.7kWの「WPT2」、ヨーロッパでの急速充電向けの11kWの「WPT3」である。送電時に用いる周波数帯は85kHz帯ですべて共通しており、キーレスエントリーに使う周波数帯と干渉しないように配慮している。さらに、ヨーロッパ以外の地域での急速充電用の22kW、大型車用の200kWの規格も策定中だ。

また、SAEは、車両の車高に合わせて、地上から受電コイルまでの距離を規定する規格も定めた。スポーツカー向けの100〜150mmの「Z1」、普通乗用車用の140〜210mmの「Z2」、SUV用の170〜250mmの「Z3」と分けられている。磁界共鳴方式は、送電距離が変化すると送電効率が大きく変動するため、こうした規格の細分化は重要だ。既に、WPT3でZ1〜Z3に対応したワイヤレス充電システムが製品化されており、市場投入できる状態になっている。

[ 脚注 ]

*6
電波受信方式によく似た技術として、超音波を送電媒体として活用する技術もある。例えば、アメリカのuBeam社は、20kHz以上の超音波を媒体として約7m離れた受電用シート状アンテナを取り付けた電子機器に電力を送電できる技術を開発した。
*7
AirFuel Alliance: 2015年11月にワイヤレス給電の標準化団体であるAlliance for Wireless Power(A4WP)とPower Matters Alliance(PMA)が統合してAirFuel Allianceが発足した。これによって、A4WPが標準化していた磁界共鳴方式の「Resence」が「AirFuel Resonant」に、PMAが標準化していた電磁誘導方式の「PWA」が「AirFuel Inductive」に名前を変えた。AirFuel Allianceは、マイクロ波や超音波、さらにはレーザー光線を用いた、電磁界の結合を用いないワイヤレス給電技術「uncoupled」の規格化も始めている。
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