No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

利便性と実用性を高める技術が続々

ワイヤレス給電の存在意義は、電源コードによる給電の欠点である利用シーンを限定してしまう状況を解消することだ。ところが、素のままのワイヤレス給電は、現時点で決して使い勝手のよいものではない。

送電側と受電側の位置がずれてしまうと送電できなかったり、送電効率が極端に落ちてしまったりする場合があるほか、送電距離や送電可能な電力についても制限がある。標準規格も多様で、どのワイヤレス給電の規格に沿っているかを意識しながら使わなければならない。また、大電力を送電するには、厳重な安全対策も不可欠だ。こうした使い勝手がよくない部分を補うため、補助技術が次々と登場している。その代表的なものを紹介しよう。

スマートフォンなど、モバイル機器の充電への利用が始まった電磁誘導方式では、送電側と受電側のコイルの位置がずれると、送電効率が急激に低くなってしまう。充電時に機器を所定の位置にピタリと合わせる作業は、結構ストレスが溜まるものだ。こうした使い勝手の悪さを解消するため、3つ補助技術が使われている。1つ目は、複数のコイルを用意し、端末に一番近いコイルから送電する「マルチコイル方式」。2つ目は、磁石を使ってコイル中心部に機器を合わせやすくした「マグネット方式」である。これは構造が単純なため、薄型化や低コスト化が容易だ。3つ目は、受電コイルの位置を検出して送電コイルを動かして充電する「ムービングコイル方式」である(図4)。どこに置いても充電が可能で、電波障害が少ない点が特長だ。

[図4] 電磁誘導方式の位置合わせに向けたムービングコイル方式の仕組み
出典:パナソニックのニュースリリース
電磁誘導方式の位置合わせに向けたムービングコイル方式の仕組み

電波受信方式で、より大きな電力を送るための技術開発も進んでいる。ここでは、発信した電磁波を受信側に集中させるビームフォーミング*8と呼ばれる技術の利用が検討されている。例えば、アメリカのOssia社が開発した「Cota」という技術では、ビームフォーミングを応用して、室内に置かれた10m先の電子機器に約1Wの給電ができるという(図5)。Cotaを使えば、1台の送電機で、複数の機器に電力を送ることもできる。しかも、送電側と受電側の間に障害物があっても、電磁波のビームを壁などに反射させて回避し、受電側に電力を集中させて送電可能である。

[図5] Ossia社のビームフォーミングを使った電波受信方式のワイヤレス給電「Cota」のイメージ図
出典:Ossia社とシステムを共同開発しているKDDIのニュースリリース
Ossia社のビームフォーミングを使った電波受信方式のワイヤレス給電「Cota」のイメージ図

EVへの大電力の給電では安全性確保が必須

大電力を送電する場合には、安全対策も欠かせない。特に近い将来に実用化することが確実なEVの充電では、3.7kW〜200kWという極めて大きな電力を、市中で送電することになる。もしも送電中に、コイルとコイルの間に空き缶のような金属製の物体が転がってくると、異常発熱によって発火する可能性もあるのだ。また、猫や場合によっては人が、コイルの間を通る可能性も否定できない。そのため、こうした状況を想定した保護機能の搭載が、実用化に向けて必須になる。

金属製の異物を検知して、状況に応じて送電を止める機能は「FOD(Foreign Object Dectation)」と呼ばれている。ここでは、コイル間の送電状況をモニタリングして、予期しない損失を検知した時に送電を停止する仕組みが採用される見込みだ。また、異物検知用の専用センサを設置する場合もあるだろう。FODは単純に精度を高めてしまうと誤作動する可能性が高まるため、開発時には豊富なノウハウの蓄積が求められる。

生体を検知して、必要に応じて送電を停止する機能は「LOP(Living Object Protection)」と呼ばれている。危険な領域に何かがある時に、それをセンサやレーダーで検知して止める。LOPでは、送受電用コイルの間だけではなく、送電コイルの近くに発生する電磁界によって、心臓ペースメーカーなどの動作に影響を与えないことにも配慮する必要がある。

[ 脚注 ]

*8
ビームフォーミング: Cotaでは、送電側に数百基のアンテナを置き、それぞれのアンテナから別の方向に向けて2.4GHzの電磁波のビームを送る。アンテナは、Wi-Fi向けのものを転用可能である。そして、電力を送電する前には試験信号の送受信を行い、その結果を分析して、どのアンテナから送電すると効率よく受電側に電力が到達するかを判断。その結果に基づいて電力を送る。ビームは、室内の壁などに反射して受電側に到達することもあり、受電側に効率よく到達できる経路は1つではない。そして、複数経路で送電した微弱な電力を受電側で足し合わせて、大きな電力を得るのだ。1つのアンテナで送電する電力は小さいので、人体や他の機器に悪影響を及ぼすこともない。Cotaと同様の原理の技術にEnergous社の「WattUp」がある。こちらは、約4.5m離れた最大12台の10W以下の電子機器に、5.8GHz帯の電磁波で同時給電できるという。
TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK