No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

完全コードレス化には補完技術の活用が欠かせない

2つのアプローチの応用範囲を拡大し、より多くの電気・電子機器を完全コードレス化するためには、補完技術の活用が欠かせない。発送電が可能な電力と消費する電力とのギャップを埋めるために電力を蓄える「蓄電」、電気・電子機器をより少ない電力で駆動できるようにする「省電」の技術を合わせて活用する必要がある。

たとえ得られる電力が小さくても、電気・電子機器を使っていない時に蓄電しておけば、必要な時に蓄電分をまとめて利用できる。また、送電範囲が限られていても、送電範囲内で蓄電しておけば、電気・電子機器が送電範囲外に出ても長時間にわたって駆動できるだろう。さらに、そもそも電子機器で消費する電力が少なくなれば、蓄電した電力でできる仕事が増え、好きな場所で利用できる時間も長くなる。

「蓄電」と「省電」の双方を進化させることができれば、「電力を地産地消する技術」と「電力を無線で伝送する技術」の効果は大きくなる。しかし、これまで「畜電」と「省電」の進展の歩みには大きな差があった(図2)。

[図2] 消費電力の低減は指数関数的に進み、蓄電容量の増加はじわじわと進む
(左)トランジスタ1個当たりのスイッチング時の消費電力の低減トレンド、
(右)2次電池のエネルギー密度の向上トレンド
出典:各社発表資料や学会論文を基に作成
トランジスタ1個当たりのスイッチング時の消費電力の低減トレンド2次電池のエネルギー密度の向上トレンド

電気・電子機器の低消費電力化は、長期にわたって急激なペースで進んでいる。特に、半導体デバイスの微細化と電源電圧の引き下げによって、電子回路を構成するトランジスタのスイッチング時の消費電力は指数関数的に低減している。さらに近年では、機器内での電力管理技術や電源回路の高効率化の進歩も目覚ましい。こうした技術開発のトレンドを維持する限り、電気・電子機器の低消費電力化は進み、完全コードレス化できる機器は確実に増えていくことだろう。

ところが、蓄電デバイスの容量は、年々増えて入るが、その歩みは遅い。蓄電デバイスの代表である2次電池(充電して何度も使える電池)を例に採ると、単セル当たりの容量を2倍に増やすのに10〜15年を要している。

半導体デバイスの低消費電力化が急激に進んだ理由は、約2年ごとに素子面積を1/2に縮小し続けることができたからである。消費電力には素子面積に比例する性質があり、素子の小型化が消費電力の低減に直結した。一方、蓄電デバイスの蓄電容量を増やすための最も手っ取り早い方法は、デバイスを大きくすることである。しかし、それでは使い勝手が悪くなるし、コストも高くなる一方である。根本的な蓄電原理を見直すか、蓄電デバイスを構成する材料を優れた特性を持つものに変えるか、いずれかの方法を採るしかない。そこに長い時間を要しているのだ。

蓄電デバイスの進化が急加速している

ところが近年、蓄電デバイスの進化がかつてないほどのペースで進み始めた。これによって、電気・電子機器の完全コードレス化が、今後急激に進む可能性が出てきている。ここからは、蓄電デバイスの技術開発の最前線を紹介し、先端技術の応用から電源コードをなくしていく可能性を探っていきたい。

まず、蓄電デバイスの進化の行方とそのインパクトをより明確に理解するため、これまでの蓄電デバイスの技術開発の取り組みを簡単に紹介したい。蓄電デバイス技術の優劣は、EVや産業機器、さらには家電製品など多くの電気・電子機器の価値を見定める上で重要なポイントになりつつある。この分野の知識は、生活や仕事の中で有用性を増すと思われる。

蓄電デバイスの性能を示す指標は2つある。1つは、一定時間に入出力できる電力の大きさを表す出力密度である。言わば瞬発力を示す指標だ。もう1つは、一定の大きさのデバイス当たりに蓄積できる電力の量を示すエネルギー密度。言わば持続力を示す指標である。より大きな電力を蓄積できる蓄電デバイスを選ぶ場合には、エネルギー密度の大きなものを選べばよい。ただし、急速充電したい、EVのような負荷の大きな電気機器を駆動したい場合には、出力密度の大きなデバイスを選ぶ必要がある。つまり、この2つの指標が高い蓄電デバイスこそが、電気・電子機器を完全コードレス化するうえでの理想になる。

蓄電デバイスと呼ばれるものには、蓄電原理が大きく異なる2種類のデバイスがある(図3)。1つは、静電気の帯電という物理現象を利用して蓄電する「キャパシタ*1」である。電気・電子機器を駆動するキャパシタとして、電気二重層キャパシタ(EDLC)*2が使われている。もう1つは化合物の酸化還元反応という化学現象を利用して蓄電する「2次電池」である。ニッケル水素2次電池*3やリチウムイオン2次電池*4などが、その代表例だ。

[図3] キャパシタの代表例である電気二重層キャパシタと電池の代表例であるリチウムイオン2次電池の構造と蓄電原理
出典:TDKとNEDOの技術資料を基に作成
キャパシタの代表例である電気二重層キャパシタと電池の代表例であるリチウムイオン2次電池の構造と蓄電原理

[ 脚注 ]

*1
キャパシタ:対向する電極の間に電荷を帯電させて蓄電する構造の電子デバイス、いわゆるコンデンサのことである。ちなみに、電子回路内で信号の平滑やノイズの除去などに利用される「チップタンタル型」や「セラミック型」のコンデンサは、機器を駆動するほどの大電力を蓄積できない。
*2
電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double Layer Capacitor): 電極に活性炭を、電解質にチタン酸バリウムを用いた構造のキャパシタ。電極に活性炭を利用しているのは、多孔質の導電体であり、電極面積を大きくできるからである。充電時には、電解液中のイオンを電極に吸着させて蓄電する。
*3
ニッケル水素2次電池: 正極に水酸化ニッケルなどを、負極に水素または水素化合物を用い、電解液に濃水酸化カリウム水溶液などを用いた2次電池である。負極の水素源として、水素吸蔵合金を用いるニッケル金属水素化物電池 (Ni-MH) が実用化し、1990年以降、家電製品やハイブリッド車のバッテリーとして広く利用されるようになった。
*4
リチウムイオン2次電池: 正極にリチウムを含む酸化物を、負極に炭素系材料を用い、電解液に浸してセパレータと呼ぶ高分子微孔膜で仕切った構造の2次電池。充電時にはリチウムイオンが正極から負極へ、放電時には負極から正極へ流れて畜放電する。リチウムイオン電池は現存する電池の中で最も作動電圧が高く、鉛蓄電池やニッケル水素電池よりも高い出力密度とエネルギー密度を実現できる。
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