No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

物理現象利用は瞬発力、化学現象利用は持久力につながる

物理現象と化学現象という両者の蓄電原理の違いは、それぞれの特徴の違いにつながっている。一言で言えば、瞬発力があるのがキャパシタ、持続力があるのが2次電池ということになる。これまでは、キャパシタと2次電池は明確に棲み分け、用途によって両者を使い分けていた。

キャパシタでは、電極材料の表面だけに電力が貯まる。電極の厚さは関係なく、面積だけで容量が決まるため、エネルギー密度を高めることが難しい。スマートフォンを利用するための電力を、キャパシタだけに蓄電するならば、とても持って歩けるような大きさには収まらない。その半面、出力効率は2次電池よりも1ケタほど高く、効率のよい充放電が可能で使い勝手がよい。この特徴を生かして、コピー機のドラムを急速過熱する用途などに使われている。また、表面に電荷が帯電しているだけなので、電極材料の劣化がほとんどない点も魅力だ。

これに対し2次電池は、電極材料が別の化合物になる化学反応で電力を貯める。電極材料全体に電力が貯まるため、2次電池の方がキャパシタよりもエネルギー密度が約2ケタ高い。しかし、充電時には電極材料の表面から電極の内部にまで電力を運ぶイオンを押し込み、放電時には逆にイオンを引っ張り出す必要がある。しかも化学反応を起こすには、一定の時間が必要になる。このため、急な電力の出し入れが難しい。また、利用可能な温度範囲も限られており、数百〜1000回の充放電で電極材料の寿命が尽きるといった欠点もある。

電源コードをなくすという目的から見た場合、2つの蓄電デバイスのうち、キャパシタの方が使い勝手がよい。例えば、ワイヤレス給電によって急速充電するような使い方に向いている。また、エネルギーハーベスティングによって、低電圧の電力しか得られなくても、高効率で蓄電できる。こうしたキャパシタの使い勝手のよさに着目して、近年では「iPhone」などスマートフォンへの応用が盛んになってきた。迅速で柔軟な運用が求められるバックアップ用電源として、さらには急速充電や大容量アプリの瞬時立ち上げのアシスト用電源としてEDLCが利用されている。

キャパシタと2次電池の複合化が始まる

ここからは、近年の蓄電デバイスの目覚ましい進化を紹介したい。キャパシタも電池も、それぞれあらたな発想での性能向上が進められている(図4)。現時点で使い勝手に優れるキャパシタでは、エネルギー密度を高める方向での開発成果が多い。一方、2次電池では、出力密度とエネルギー密度の両方を同時に高めることを目標に様々な取り組みが行われている。近年では、自動車の電動化を後押しするため、2次電池開発の分野に巨額の資金と大量の研究者が投入された。

[図4] キャパシタと2次電池、進化の方向性
出典:各種資料を基に作成
キャパシタと2次電池、進化の方向性

近年、キャパシタと2次電池、両者の原理を複合化した蓄電デバイスの開発が相次いでいる。キャパシタのエネルギー密度を向上させるために、2次電池の蓄電原理である酸化還元反応を導入した「電気化学キャパシタ」と呼ばれるデバイスの開発も順調だ。電極表面での帯電だけではなく、化学反応による蓄電を正極か負極のどちらか一方、あるいは両方に導入した技術も登場し*5、「リチウムイオン・キャパシタ(LIC)」と呼ばれる新世代のキャパシタが、既に実用化されている(図5)。

キャパシタと電池の原理を複合化した蓄電デバイス例
[図5] キャパシタと電池の原理を複合化した蓄電デバイス例
リチウムイオン・キャパシタ(左)、
キャパシタ用と2次電池用それぞれの電極を備えた複合型蓄電デバイス(右)
太陽誘電エナジーデバイスの資料(左)、三菱電機のニュースリリース(右)

LICとは、EDLCの蓄電原理を基にしながら、負極材料にリチウムイオンを吸蔵できる炭素系材料を使い、そこにリチウムイオンを添加することでエネルギー密度を向上させたものだ。つまり、正極と負極の蓄電原理が異なる。ただし、正極と負極に貯まる電荷は釣り合っている必要があるので、あらかじめ負極にリチウムイオンを吸蔵させておく。するとその分だけ静電容量が増大し、一般的なEDLCに比べてエネルギー密度を約2倍に高めることができる。過放電が進むとセルが劣化する欠点を電池から受け継いでいるため、使用に際しては電圧監視用の制御回路が必要になる。

また、片方の電極を2つ用意する蓄電デバイスもある。三菱電機は、LICとリチウムイオン2次電池をセルの内部で一体化し、瞬発力と持続力を両立した複合型蓄電デバイスを開発した。開発した複合型蓄電デバイスでは、LIC部とリチウムイオン電池部のそれぞれに正極を用意し、1枚の負極と電解液を共有する構造を採っている。急速な充放電をLIC部が受け持つことで、リチウムイオン2次電池よりも急速充電時のサイクル寿命が約4倍に伸びたという。

[ 脚注 ]

*5
キャパシタの蓄電に化学現象を導入するということは、容量の向上と引き替えに2次電池の短所も引き継ぐことになる。例えば、蓄電デバイスの寿命が、EDLCに比べて短くなる。いかにキャパシタの優位性を損なわずに容量を増加させるかが、技術開発の焦点になっている。
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