No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

Cross Talkクロストーク

実用に最も近いデジタルアニーラ

堀江 健志氏

── デジタルアニーラは、すでに実用化されているわけですね。

堀江 ── デジタルアニーラですべての問題を解けるとまでは思っていませんが、組合せ最適化問題についてはある程度まで解けると考えています。ただ、そのためにはもっとデータを集める必要があるし、集めたデータを処理してデジタルアニーラで解析し、その結果をAIで活用していくといったプロセスが必要になってきます。デジタルアニーラと汎用コンピュータをうまく組合せながら、現実の問題解決を進めるイメージですね。

齋藤 ── 量子コンピュータが対象としている組合せ最適化の領域では、デジタルアニーラが実用に近そうですが。

堀江 ── そうですね。限定的ではありますが、デジタルアニーラのクラウドサービスも提供し始めました。また量子コンピュータ向けソフトウェアに特化した世界初の企業である、カナダの1QBit社*11との協業も始めています。

齋藤 ── そうなると今後の課題は、デジタルアニーラに最適な問題をどのようにして現実から抽出してくるかになりますね。実用化されている量子コンピュータとしては、Dウェーブ社の量子アニーリング方式のマシンもありますが、その最新バージョンの“D-Wave200Q”は巨大なマシンで、価格も17億円ぐらいと巨額です。

堀江 ── Dウェーブのマシンは超伝導状態で使います。つまり絶対零度近くまでマシンを冷やす必要があるため、どうしても装置が大掛かりにならざるを得ないのです。その点、デジタルアニーラの大きさは普通のコンピュータと変わりありませんから、ごく普通に使えます。

齋藤 ── 1QBit社以外との提携なども進められているのでしょうか。

堀江 ── 提携に関しては、1QBit社と同じくカナダのトロント大学とも戦略的パートナーシップを結んでいます。デジタルアニーラをコアにおいて、AI開発も含めた共同開発をトロント大学に拠点を設けて進めていきます。

齋藤 ── なぜ、カナダなのでしょう。1QBit社、トロント大学、Dウェーブ社といずれもカナダですね。

堀江 ── トロント大学にはニューラルネットワーク*12の研究で知られるジェフリー・ヒントン*13教授がいます。だからAIのメッカと言ってもいい。なによりも、トロント大学が総合大学であり、社会的問題の解決に幅広く取り組んでいるのも、我々の考え方とマッチしています。

【後編のあらすじ】

デジタルアニーラをはじめとする量子コンピュータが、AIをエクスポネンシャルに進化させていくことは、ほぼ間違いない未来予測である。その先にあるのがシンギュラリティだ。後編では、昨年、自らシンギュラリティ・ユニバーシティのエグゼクティブコースで学んだ齋藤氏の体験談を踏まえて、近未来の社会について語ってもらう。

[ 脚注 ]

*11
1QBit社:
機械学習、サンプリング、最適化問題など様々な問題を量子コンピュータで解く新規技術を開発してきた。これらの技術を用いて金融、エネルギー、先端材料、ライフサイエンスなどの分野で高性能アプリケーションを提供することに注力している。
*12
ニューラルネットワーク:
脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデル。
*13
ジェフリー・ヒントン:
コンピュータ科学および認知心理学の研究者。ニューラルネットワークの研究で知られ、トロント大学に籍を置きながら、Googleでも働いている。

対談を終えて

Profile

堀江 健志氏

堀江 健志(ほりえ たけし)

1962年生まれ。

株式会社富士通研究所取締役

東京大学大学院工学系研究科電子工学専門修士課程修了、工学博士。富士通研究所入社後、スタンフォード大学客員研究員、米国HAL Computer Systems、米国富士通研究所(FLA)に在籍。現在、富士通研究所取締役として次世代ICTを担当、革新的なコンピューティング技術の研究開発を推進。坂井記念特別賞、電気科学技術奨励賞、情報処理学会業績賞などを受賞し、研究者として優れた業績を多数保有するとともに、研究開発戦略や技術の事業化も牽引している。

齋藤 和紀氏

齋藤 和紀(さいとう かずのり)

1974年生まれ。

エクスポネンシャル・ジャパン共同代表、Spectee社CFO 、 iROBOTICS社CFO、ExOコンサルタント。

早稲田大学人間科学部卒、同大学院ファイナンス研究科流量。シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラム終了。2017年シンギュラリティ大学グローバルインパクトチャレンジ・オーガナイザー。金融庁職員、石油化学メーカーの経理部長を経た後、ベンチャー業界へ。シリコンバレーの投資家・大企業からの資金調達をリードするなど、成長期にあるベンチャーや過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支える。

Writer

竹林 篤実(たけばやし あつみ)

1960年生まれ。ライター(理系・医系・マーケティング系)。
京都大学文学部哲学科卒業後、広告代理店にてプランナーを務めた後に独立。以降、BtoBに特化したマーケティングプランナー、インタビュワーとしてキャリアを重ねる。2011年、理系ライターズ「チーム・パスカル」結成、代表を務める。BtoB企業オウンドメディアのコンテンツライティングを多く手がける。

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