No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

Cross Talkクロストーク

シンギュラリティユニバーシティでの学び

齋藤和紀氏 堀江健志氏

── アメリカの大学といえば、斎藤さんはつい最近、シンギュラリティユニバーシティの短期エグゼクティブ向けコースを受講されていますね。

齋藤 ── シンギュラリティユニバーシティは、いわゆる大学ではなく、教育機関であり研究機関でもあるとの位置づけです。Google、Ciscoなどの大企業がスポンサーになり、キャンパスはシリコンバレーのNASAリサーチパーク内にあります。夏季に行われる若者向けプログラムGSP*1には、定員80人の枠に対して世界中から数千人単位で応募が殺到します。私が参加したエグゼクティブ向けプログラムはかなりの高額にもかかわらず、こちらも世界中からかなりの応募があったようです。

堀江 ── 非常にシリコンバレー的な組織ですね。

齋藤 ── 若者向けプログラムには、起業家の卵やぶっ飛んだマッドサイエンティストっぽい人たちも集まっています。ここで提供されているのは、地球人類規模の問題解決のための技術や考え方に関する講義です。飛び抜けてハイレベルな目標をぶち上げて、それに賛同する人間が集まってくるわけですから、そこには自然にコミュニティが生まれます。しかもそれは、国や企業、大学などの枠が完全に取り払われ、世界中の人がつながったものなのです。

堀江 ── 必要なものを、必要なときに、必要な分だけ調達する。調達先には一切こだわらないという、シリコンバレーのベンチャーに共通する考え方ですね。だからスピードが桁外れに速い。

齋藤 ── そうした環境に身をおくことで、マインドセットが確実に変わりますね。これだけ世の中の変化が速くて、技術の進化も速い時代なのだから、まずはアイデアなんだと。とにかく、おもしろいアイデアを生み出したら、すぐに動く。これはイーロン・マスク*2などの考え方に近いと思いますが、とにかくおもしろいことをやり続けるマインドが大切なのです。そしてもう一つ、イノベーションを起こすときに欠かせないのが、まわりを巻き込む力です。これが日本人にとって弱い部分なのですが、とにかく何かドカンと派手な花火をぶち上げて、人とモノと技術を一気に集めてしまう。その手法の例が賞金レースやハッカソンなどで、シンギュラリティユニバーシティでもアクセラレーションプログラムを毎年秋に実施しています。このプログラムの選考通過者には、10万ドルの開業資金とGSPと同様のプログラムが提供されます。

堀江 ──賞金レースも面白いですね。我々もトロント大学と連携して、色々なことを企画してみようと思います。向こうにはそうした企画を支援してくれる機関がいくつかありますから。

齋藤 ── そういう話を聞くと、どうして日本ではできないんだろうと思うのですが。

堀江 ── そこが日本の問題点で、やはり多様性に欠けるのです。その点、トロントでは本当に多様な人種が共存しています。

齋藤 ── 元々、旧フランス領と旧イギリス領の中間に位置していた町ですからね。気候もいいし町も美しい、そして何より活気があります。

AIの進化を加速するデジタルアニーラ

── そのトロント大学と提携して開発が進められているデジタルアニーラですが、今後のAIの進化にどのように貢献するのでしょうか。

堀江 ── まずディープラーニングそのものを加速する専用AIプロセッサとして、『DLU(Deep Learning Unit)(※図1)』の開発を進めており、2018年度の出荷を計画しています。これも含めてデジタルアニーラを活かして、次のステップを目指していくことになります。AIの用途の中でも組合せ最適化問題を解くケースは非常に多いので、そこではデジタルアニーラが力を発揮できると思います。

[図1] ディープラーニングに特化した富士通のAIプロセッサ「DLU(Deep Learning Unit)」
写真提供: 富士通株式会社
ディープラーニングに特化した富士通のAIプロセッサ「DLU(Deep Learning Unit)

[ 脚注 ]

*1
若者向けプログラムGSP: Global Solution Programでは、毎年夏季に80人を集めて行われ、10週間のSU滞在中に、地球人類規模の問題解決のための技術や考え方に関する講義などを提供される。
*2
イーロン・マスク: アメリカの実業家、投資家であり、エンジニアでもある。スペースX社の共同設立者およびCEO、テスラの共同設立者およびCEO、テスラの子会社であるソーラーシティの会長を務める。
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