No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

Cross Talkクロストーク

求められる「説明可能なAI」

堀江健志氏

齋藤 ── では、次の大きなブレイクスルーは、いつぐらいに、どの分野で起こるのでしょうか。

堀江 ── いま我々が力を入れて取り組んでいるテーマの一つが「説明可能なAI」です。例えば企業がAIを導入して、経営課題に対してAIが何らかの答えを提示したとしましょう。

齋藤 ── その回答を鵜呑みにするようでは経営者失格ですね。

堀江 ── まさに。理由や根拠が明らかになっていない回答など、意思決定にはとても使えません。

齋藤 ── であれば、医療分野でのAI活用でも同じことがいえます。

堀江 ── 膨大な量の医療データをAIが扱い、医師の代わりに思考して何らかの医学的結論を導き出す。それは良いとしても、その診断理由を患者さんが納得できるように説明できなければ意味がありません。こうした問題を解決するのが、「説明可能なAI」です。技術的な詳細は省略しますが、グラフ構造のデータを学習するAI技術を、学術論文などのデータを蓄積したグラフデータと組み合わせて診断します。これにより、例えばゲノム医療などの分野で、特定の遺伝子変異から疾患を推定する場合に、該当する学術論文などの医学的な根拠を示せるようになります。

齋藤 ── AIを活用して経営判断を下す際にも「なぜ」を説明してもらわなければ、経営者として納得できませんからね。「説明可能なAI」の現時点での完成度は、どれぐらいまで来ているのですか。

堀江 ── あと少し時間がかかりそうです。医療論文の判断については、ナレッジグラフ、つまり知識データをもっと蓄積する必要がありますし、同時にアルゴリズムの改良も進めていかなければなりません。完成までにはまだまだ先は長いと認識していますが、それでも将来的に必要となる技術であり、全力で取り組んでいます。

シンギュラリティは、起こらない方がおかしい

齋藤 ── シンギュラリティについて個人的には、それが来ても来なくてもどちらでも良いと受け止めています。未来学者の中でも意見が別れていますし、AIの専門家でもシンギュラリティなど絶対に来ないと断言する人もいる。ぜひお聞きしたいのは、コンピュータのトップ企業で、シンギュラリティがどのように受け止められているのかという点です。

堀江 ── 社としての統一見解はないはずで、シンギュラリティに備えて何かしているわけでもありません。ただ、個人的な意見を述べるなら、シンギュラリティは起こらないはずがないと思います。これだけ技術が加速度的に進化している状況が続けば、自然にシンギュラリティは起こる。ただし、技術的に可能だからといって、本当にやっていいかどうかはまったくの別問題でしょう。けれども、技術だけに論点を絞るのであれば、できないはずがない。

齋藤 ── 量子コンピュータがブレイクスルーを起こす一つのきっかけになりますか。

堀江 ── 可能性は十分にあるでしょうね。

齋藤 ── レイ・カーツワイルが予測した2045年までは、まだあと20年以上あります。けれども20年前と今を比べると、この間のテクノロジーの進化とそれが変えた社会の有り様の変化は恐ろしいほどです。しかも、進化は依然として加速している。その結果、何が起こるのでしょうか。

堀江 ── ただ一つ言えるのは、汎用コンピュータの性能は、これまでのようには高まらないだろうということ。ただし、様々な技術の発展が相まって、結果的にコンピュータの能力が高まっていくのは間違いない。その結果、何が起こるのかといった予測は難しい状況です。

齋藤 ── 想像の範囲を超えていると?

堀江 ── 20年前に、20年後の社会をどのように予測していたでしょうか。例えば、クルマの自動運転についてはいかがですか。確かにいつかは実現するだろうと思われていたけれど、それが20年後の話だとは誰も考えていなかったはずです。あるいはスマートフォンに似たようなデバイスはあったけれども、人々の暮らしをここまで一変させてしまうなどとは予測もできなかったでしょう。ただ、共通しているのは、それらの技術が社会の問題を確実に解決しているということです。つまり問題解決に向かう技術は、いくらでも進化する。我々に限らず人類は、そのために日夜努力を重ねているのですから。

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