No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

Cross Talkクロストーク

キーワードはエクスポネンシャル

齋藤 和紀氏

── ブレイクスルーを起こしていくには、コンピュータ自体に加えてサポート技術が必要ですね。

齋藤 ── コンピュータが速くなり、それによって様々な技術開発が進む。その結果がコンピュータを進化させる。そんなサイクルが加速しているのではありませんか。

堀江 ── その通りです。その意味では斎藤さんがおっしゃるエクスポネンシャル、つまり指数関数的な成長が起こっていますね。

齋藤 ── おそらく「エクスポネンシャル」という言葉を日本で一番多く使っているのが私だと自負しています(笑)。先ほどのシンギュラリティが来る来ないという問題よりも、エクスポネンシャルという概念が注目されているという点が重要です。そこで、一つの技術だけに着目するのではなく、その代替技術の登場なども注意していく必要があります。すると、さまざまな技術がからまり合いながらエクスポネンシャルに進化しているのだから、堀江さんがおっしゃるようにシンギュラリティが来ない理由はまったくありませんね。

堀江 ── まったく同意見です。

齋藤 ── そうなると重要なのは、シンギュラリティが起こった結果がどうなるかではなく、起こったときに我々がどうしたいのか――まさにマインドセットが問われるのだと思います。例えば、キーワードの一つとなるGNR、すなわちジェネリック、ナノテクノロジー、ロボティクスなどの分野で、量子コンピュータなどを活用してどのようなイノベーションを起こしていくのか……。

齋藤 ── 御社が偉大な企業であり続ける理由は、単に技術開発を行っているのではなく、その先に常に社会の課題を見据えているからですね。その中には、当然SDGs*3のようなターゲットも入ってくるのでしょう。

堀江 ── データの扱いをどうするのかといった課題があります。社会的なインパクトを考えるなら、情報セキュリティのあり方も含めた未来像を考えていく必要があるわけです。

5年後に見えてくる近未来の姿

齋藤 ── データに関していえば、IoTで膨大なデータが集まるようになり、さらに通信が5Gになるとレイテンシー*4がほぼなくなります。

堀江 ── 通信がリアルタイムになる社会的なインパクトは極めて大きいと思っています。一番に思い浮かぶのはクルマの自動運転ですが、5Gが実現する世界観に、社会がまだ対応できていないような気もしますね。

齋藤 ── 今だと若干の遅延が生命に関わる問題を引き起こしかねないため、医療器具などは通信が瞬時に伝わる同じ手術室の中でしか使えません。けれども、これが遠隔操作できるようになると、医療も画期的に変わりそうです。このようにほんの一例を思い浮かべるだけで、世の中が劇的に変わる予感がします。

── 最後にお二人に、5年後の世界についてのご意見をいただけたらと思います。

齋藤 ── 2023年といえば、すでに東京オリンピックは終わり、招致に成功していれば2025年の万博に向けた準備が始まっているおもしろい時期ですね。おそらくドローンが大量に飛び回っているだろうし、自然エネルギーの普及によりゼロエミッションの実現も見えてきているのではないでしょうか。世の中の権力構造も今とは変わっているでしょう。特に株式市場や企業の仕組みと個人の関係などは、大きく変化していると思います。具体的には、個人がもっとエンパワーメントされ、その中で個人の動きがぐっと活発になるのではないでしょうか。

堀江 ── その意味では、最近増えているシェアリングは、個人の動きの活発化を示す一つの象徴とも思えますね。データも含めて、いろいろなものが共有化されることで効率を高めていく。5年後を考えれば、量子コンピュータもより進化しているだろうし、5Gも普及しているでしょう。

齋藤 ── そうなるとシンギュラリティの実態が、よりクリアになっているのではないでしょうか。この3年間だけでも社会が変化するスピードは加速しています。これがエクスポネンシャルに進むと5年後は、どこまで変わっているのか……。

堀江 ── 囲碁でAIがプロ棋士に勝つのはずいぶん先だと言われていたのに、すでに勝ってしまいましたからね。同じような変化が、社会のあらゆる面で起こってくる。

齋藤 ── その先鞭を着ける役割を、量子コンピュータに期待します。想像もつかない素晴らしい世界を、実現するために……。

[ 脚注 ]

*3
SDGs:
Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月の国連サミットで採択された、国連加盟193か国が2016年〜2030年の15年間で達成するために掲げた目標を意味する。
*4
レイテンシー:
デバイスに対して何らかのデータ処理を要求してから、その結果が返送されるまでの遅延時間を意味する。

対談を終えて

Profile

堀江 健志氏

堀江 健志(ほりえ たけし)

1962年生まれ。

株式会社富士通研究所取締役

東京大学大学院工学系研究科電子工学専門修士課程修了、工学博士。富士通研究所入社後、スタンフォード大学客員研究員、米国HAL Computer Systems、米国富士通研究所(FLA)に在籍。現在、富士通研究所取締役として次世代ICTを担当、革新的なコンピューティング技術の研究開発を推進。坂井記念特別賞、電気科学技術奨励賞、情報処理学会業績賞などを受賞し、研究者として優れた業績を多数保有するとともに、研究開発戦略や技術の事業化も牽引している。

齋藤 和紀氏

齋藤 和紀(さいとう かずのり)

1974年生まれ。

エクスポネンシャル・ジャパン共同代表、Spectee社CFO 、 iROBOTICS社CFO、ExOコンサルタント。

早稲田大学人間科学部卒、同大学院ファイナンス研究科流量。シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラム終了。2017年シンギュラリティ大学グローバルインパクトチャレンジ・オーガナイザー。金融庁職員、石油化学メーカーの経理部長を経た後、ベンチャー業界へ。シリコンバレーの投資家・大企業からの資金調達をリードするなど、成長期にあるベンチャーや過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支える。

Writer

竹林 篤実(たけばやし あつみ)

1960年生まれ。ライター(理系・医系・マーケティング系)。
京都大学文学部哲学科卒業後、広告代理店にてプランナーを務めた後に独立。以降、BtoBに特化したマーケティングプランナー、インタビュワーとしてキャリアを重ねる。2011年、理系ライターズ「チーム・パスカル」結成、代表を務める。BtoB企業オウンドメディアのコンテンツライティングを多く手がける。

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