No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── インテルとの共同研究は、どのようにして始まったのでしょうか。

インテルはしばらく前から量子技術に関心を持ち、そこに投資をすべきかどうかを検討していました。そして自社でも開発を行うことを決定した際に、世界中を回って共同研究をするパートナーとしてふさわしいのはどこかを探したのです。その結果、QuTechを唯一のパートナーと決定しました。理由は、QuTechが量子コンピュータを実現するための全ての分野に関わっていたからです。

── マイクロソフトについてもお聞かせください。

マイクロソフトは、2010年ごろから大学での量子研究をサポートしたり、グーグルと共同研究を行ったりしていました。それらはずっと小規模なものだったのですが、昨年QuTechを訪問し、量子研究を本格化することを決定しました。そして、デルフトに研究所を作ることにしたのです。この研究所は、マイクロソフト独自の研究所ですが、QuTechにも研究者を送ってきます。

── 量子コンピュータには、量子ゲートウェイ方式や量子アニーリング方式など、いくつかの異なったアプローチがありますが、QuTechが量子ゲートウェイ方式を選んだ理由はどこにあるのでしょうか。

QuTechが設立された際に我々は、研究領域を限定することに合意しました。まず、ソリッド・ステート(固体)のチップを作り、量子ゲートウェイ方式を採用し、それをスケーラブル(拡張可能)にするということです。つまり、汎用の量子コンピュータに焦点を絞ったのです。この時点で、他の数々のプラットフォームの選択肢が排除されました。現在、ソリッド・ステートには大企業も注力しており、この選択は間違っていなかったと思っています。

── ところで、QuTechには外部の研究室がいくつも関わっていますが、その教授たちはどの程度の時間をQuTechのロードマップに費やしているのでしょうか。

80パーセントくらいでしょう。それぞれの研究もあるでしょうが、各研究は密接にQuTechのゴールに関連したものになっています。というのも、QuTechは量子コンピュータに関する全ての技術スタックに関わっていますが、理論から電子までコラボレーションが中心になっているからです。そのため、通常の研究環境と比べると、共同研究が多くなっています。また、ゴールに向かうステップを一つ一つこなしていくことは、教授たちにとって新たな科学の研究機会を見出すきっかけになるという、非常に面白い環境でもあります。テクノロジーが優れていれば、自分が開発したシステムに対してより大きなコントロール力を持つことができ、それがひいては新しい科学手段になります。我々は、量子という領域の中で新たなテリトリーを探索しており、その手段が量子コンピュータと量子インターネットだと言えます。最先端にいるからこそ、教授たちも関心を持っているのです。

── 企業との共同研究は、QuTechにどのような影響を与えているのでしょう。実用化を急かされるようなこともありますか。それとも量子コンピュータはまだまだ基礎研究の段階が続くのでしょうか。

その両面がありますね。インテルの場合は10年計画があり、目標の一部はエンジニアリング的、他の部分は基礎プロセスの理解を必要とする科学的な視点から定められています。この共同研究の利点は、何をすべきか、何がボトルネックなのか、何が理解できていないのかを共に定義できたことです。また、エンジニアリング面でのサポートをもらえる利点も大きいと言えます。科学に携わる教授たちにとっては、その面を専門家に任せられれば、安心して研究に頭脳を費やすことができますから。

── IBMやグーグル、D-Waveで進められている研究や開発をどう見ていますか。

IBMやグーグルでの研究開発は、QuTechで行っていることとよく似ています。開発に携わっている研究者も、10年前には同じ研究コミュニティーにいたよく知っている人々です。彼らがグーグルでエンジニアのサポートを受けながら研究しているという点も、状況的によく似ています。また、基本的な量子ビットを研究している点も同じですが、彼らが超伝導量子ビット*8に集中しているのに対して、我々はシリコン製の量子ビットにも注目しています。現時点では、超伝導量子ビットの方がより開発が進んでいるのは確かですが、長期的に見ると、それで何ができるのかという視点の違いです。インテルは、シリコンをよく理解しており、それを制御するための素材科学やプロセシングも熟知しています。それが、量子コンピュータでも決定的なものになると考えているわけです。一方、グーグルには素材研究の歴史はありません。同社は、スケーラブルとなることを求めて、ソリッド・ステート(固体)のチップを作ると決めたのですが、現時点で研究が進んでいて、最もスケーラブルなものが超伝導量子ビットですから、そこから始めるのも理にかなっています。

── D-Waveについてはいかがですか。

D-Waveについては色々な見方がありますが、興味深い会社です。優れたエンジニアリングによって、大きなチップや電子制御も実現させました。ただし、ある時点から先は、どんなアーキテクチャーが量子加速を実現するのかという非常に理論的な議論になります。D-Waveは、特定の問題解決については量子加速を実現しましたが、それはグーグルやIBM、インテルやQuTechが求めている汎用的な量子コンピュータとは異なるものであるということしか言えません。D-Waveのニッチの強みはわかったが、それがどこまでスケーラブルなのかについては、今後も観察が必要でしょう。

量子コンピュータのための極低温冷却装置
量子コンピュータのための極低温冷却装置

[ 脚注 ]

*8
SQA(Simulated Quantum Annealing)法:解の候補の量子力学的な重ね合わせの時間変化を表すシュレーディンガー方程式を解いていく、量子アニーリングをシミュレーションすること。
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