No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

連載01

ネット革命第2波、ブロックチェーンの衝撃

Series Report

個人所有のロッカーや電源コンセントまでシェアリング

個人間で、クルマや家など所有物を貸し借りするシェアリングも、モノの利用状況を確実に記録できるブロックチェーンとの親和性が高い応用である。ブロックチェーンは、お互いに信用できない者同士が契約する用途に特に向いているからだ。

例えばクルマを見知らぬ個人同士が貸し借りする場合、それを仲介する第三者がいなくても、信頼性の高い貸し借りができるようになる。さらに、使用状況を記録し、保険コストやその他のコストを配分することも可能だ。また、Uberのような配車サービスに応用すれば、ユーザーとドライバー間で、ドライバーのスキルや観光案内など付加価値に応じて、独自の料金設定もできるようになる。

クルマや家以外の、小さな所有物の貸し借りを活発化させる可能性もある。例えば、GMOインターネットグループとセゾン情報システムズは、「スマート宅配BOX」と呼ばれるネット接続した宅配ボックスを、ブロックチェーンを活用して複数の宅配業者がシェアするサービスの実証実験に取り組んでいる(図4)。また、電子機器を充電するための電源ソケットをシェアするアイデアもある。時間指定した電源ソケットの使用権をブロックチェーンに基づくトークンとして発行し、これを受け取った電子機器を接続した時に通電させて、充電可能な状態にする。これによって、公共施設の電源を、使用権を持つ人に開放できるようになる。

[図4] 宅配ボックスのシェアリングサービス、「スマート宅配BOX」の仕組み
出典:GMOインターネットグループのニュースリリース
宅配ボックスのシェアリングサービス、「スマート宅配BOX」の仕組み

モノの動き、人の経歴や健康状態を確実に記録

取引の履歴を改ざんの余地なく記録できるブロックチェーンの仕組みは、流通の信頼性の向上にも応用できる。物流は、生活や企業活動を維持するうえで欠かせない社会機能であり、そこでの信頼性向上のインパクトは大きい。

ブロックチェーンを活用すると、製品の原材料や製造過程から流通、販売までサプライチェーン全体を見える化、透明化できる。これによって、時間の遅延や無駄なコスト、人的ミスなどの大幅な削減が期待されている。さらに、取引記録、加工履歴、製品のロット番号や仕様、純正品であることの保証情報なども、厳密に管理できる。イギリスのEverledger社は、ダイヤモンドの個品管理にブロックチェーンを活用し、個々のダイヤモンドのシリアル番号やカラット数などのほか、その所有権と流通履歴の管理ができる仕組みを提供している。同様の仕組みは、美術品の真贋証明、食品の産地や加工者の証明などにも応用可能だ。

人の履歴や健康状態の変化をブロックチェーンで管理する取り組みも進んでいる。

ソニー・グローバルエデュケーションは、ブロックチェーンを応用して、複数の教育機関のデータを一元管理し、信頼性の高い学習データやデジタル成績証明書などの登録・参照を可能にするシステムを開発した(図5)。就職活動の際には学校の成績証明書など公的機関の証明書の原本の提出を求められるが、このシステムならば、デジタル化しても真正性を確認できるためネットを通じた提出も可能になる。一方、リクルートテクノロジーズは、転職支援業務の一部をブロックチェーン化する実証実験を行った。履歴書や卒業証明書などの個人データをブロックチェーンで管理することで、経歴の詐称がないことを保証し、利用者が指定した期間、対象企業に限り閲覧可能にするのだ。

[図5] ソニー・グローバルエデュケーションのデジタル成績証明書
出典:ソニー・グローバルエデュケーションのホームページの資料を基に作成
ソニー・グローバルエデュケーションのデジタル成績証明書

ブロックチェーンを活用して、複数の病院、医療機関が、電子カルテや投薬記録など医療データを共有する仕組みをアメリカのBitHealth社が開発している。医療機関のデータ連携は、正確な診断、効果的な治療法の提案、費用対効果の高い医療に欠かせない。しかし、医療業界では、各医療機関の情報システムでデータを安全に共有できない問題を抱えている。しかしこれもブロックチェーンを利用することで、医療データのセキュリティを確保しながら、個人の医療データを共有できるようになる。

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