No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Cross Talkクロストーク

震災が教えてくれたこと

鈴木 悌介氏

── 東日本大震災は、日本にとっての大きな転換点になりましたが、お二人にはどのような影響を与えたのでしょうか。

東 ── 少し変わった経験ですが、世界中の文化人類学者たちにとって、未だかつてなかった学術的価値がもたらされた様子を目の当たりにしました。

鈴木 ── 具体的には、どういうことでしょうか。

東 ── 人類はこれまでに大災害を何度も経験してきましたが、東日本大震災クラスの大規模災害についての記録が、写真や映像で今回ほど充実して残されたケースは歴史上初めてだったのです。災害自体は世界各地で起こっていますが、これも甚大な大規模災害が克明に記録されたのは、デジタル化が進んでいた時代だからこそ。私自身も、総務省と国立国会図書館と共にデジタルの画像や映像、テキストレポートなどの記録をすべてアーカイブ化する仕事に携わり、その成果は国会図書館の『ひなぎく*2』というウェブサイトにまとめられています。鈴木さんも、震災以降に次々と新たな動きを始められたと伺いました。

鈴木 ── 私はアメリカで起業し、10年間会社経営に携わり、1991年に日本に戻ってきました。それから地元の商工会議所の青年部で活動し、後に日本商工会議所の青年部会長を務めさせていただきました。会長時代に日本中をまわり、日本の価値や魅力は、各地域にあることを実感していました。そして地域の仲間たちと顔の見える関係でつながり、まさにこれからまちづくりを一緒に進めていこうとする段階で、3.11が起こったのです。

東 ── 被災地支援にも積極的に動かれたのですね。

鈴木 ── 知人がいる気仙沼の避難所には600人の被災者が身を寄せていたので、とりあえず「かまぼこ」など食料品を送ろうと連絡を取りました。結局叶えませんでしたが。

日本全体を考える視点への気づき

鈴木 ── 日本の行政組織はいろいろ問題を抱えているにせよ、優秀だと思います。平時には、そうした組織でも良いのでしょうが、想定外の出来事が起こったときには中央集権的な行政組織だと対処できない事が多い事実を目の当たりにしました。そんなときには私と知人の間のような顔の見える関係がものごとを動かすこと、さらには自立分散型の仕組みが必要であることを学びました。

東 ── 想定外の出来事といえば、先ほど述べた資本主義の終焉が迫りつつあります。あまり認知されていないようですが、ローマ・クラブが2012年にアップデートした『成長の限界*3』では、資本主義の限界といったコンセプトが打ち出されています。現在のアングロ・サクソン系の考え方に基づく金融システムはいずれ破綻するし、化石燃料に頼った持続的な経済成長も限界に達しているといった内容です。

鈴木 ── 身近な想定外をあげれば、電化製品はコンセントにつなぎさえすれば動くという常識が、震災後には常識ではなくなりました。そのとき初めて、コンセントの向こう側はどうなっているのかと考えるようになったのです。これまで当たり前のように使えていた電気は、どうやって作られていたのかと疑問を持ちました。

東 ── 計画停電の影響は大きかったですね。あの頃が日本にとっては、国のあり方について基本的なコンセプトを切り替える絶好のタイミングだったと思いますが、残念ながらそうはならなかった。そんな中で鈴木さんは、2011年から積極的な動きを加速されていますね。

[ 脚注 ]

*2
ひなぎく: 東日本大震災に関するデジタルデータを一元的に検索・活用できるポータルサイト。「東日本大震災に関するあらゆる記録・教訓を次の世代へ」をコンセプトとし、被災地の復旧・復興事業、今後の防災・減災対策や学術研究・教育等に活用されることを目指している。東日本大震災に関連する音声・動画、写真、ウェブ情報等を包括的に検索できる。
http://kn.ndl.go.jp/#/
*3
成長の限界: 1972年に国際的な研究・提言機関〈ローマ・クラブ〉が発表した報告書。将来も現在(1972年)のような人口の爆発的増加と経済成長が続いた場合には、人口、食糧生産、資源、環境などの問題を総合的に検討すると、100年以内に地球の成長は限界に達するとされた。
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