No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Cross Talkクロストーク

新世代が起こすパラダイムシフト

東 博暢氏

── 震災の1年後、2012年3月に鈴木様は「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議(エネ経)」を立ち上げられています。その問題意識は何だったのでしょうか。

鈴木 ── キッカケは原発事故でした。あれにより箱根のホテルや旅館に入っていた予約の9割がキャンセルになり、この店の売上も2割まで落ちました。このままでは会社が潰れてしまうとの危機感に襲われたのです。

東 ── 風評被害による影響もかなりひどかったのではないでしょうか。

鈴木 ── 隣町の山北町は足柄茶の産地です。福島原発からは300km離れているにもかかわらず、セシウムが検出されたため、2年半も出荷が止まってしまったのです。

東 ── セシウムは東京の水道水からも検出され、一時はスーパーやコンビニの棚からペットボトルの水が消えてしまいました。

鈴木 ── そうした状況に陥ってみて、当たり前の暮らしの大切さを痛感しました。普通に水道の水を飲めて、普通に空気を吸えて、普通に街を歩けるから、何か美味しいものでも食べに行こうかと考える。新しい服を買おうとか、箱根に遊びに行こうと思う。経済活動の前提となるのは、普通の当たり前の暮らしであり、それを支えているのがエネルギーだと悟ったのです。

東 ── これからの日本のあり方を考えるときに、エネルギーは絶対に外せない要素ですが、もう一点重要な要素があります。それは、将来の日本を担う人たち、つまり今の若い人たちの考え方です。1995年生まれがインターネット世代で、彼らに続くのが2005年以降に生まれたソーシャル世代、2010年以降はモバイル世代で、2015年以降は生まれたときから、ヒト型ロボットが傍らにいたというロボット共生世代でしょう。

鈴木 ── きっと我々のような世代とは、かなり感覚が異なるのでしょうね(笑)

東 ── 何より特徴的なのは、5年ぐらいの期間で世代感覚が変わっていることです。これは日本に限った現象ではなく、世界的な潮流です。そんな彼らが近未来の担い手であるにもかかわらず、世界の枠組みを考えるシニアな人たちの視野には、その存在があまり意識されていません。

エネルギー問題についての多面的な視点

鈴木 ── 東さんのお話を伺っていると、今後増えていく感性が多様で考え方も様々に異なる人たちを、中央集権的なシステムで一元管理し続けるのは無理がありそうです。

東 ── その意味でも、鈴木さんの活動は未来志向だと感じています。私は都市開発も手がけていますが、まちづくりについては一度政策が立てられてしまうと、その方向性で50年ぐらいは固定化され柔軟性にかけるのです。まちに住む人たちの生活も時代と共に変わり、社会環境変化していく前提で、まちも変わっていくものだという柔軟な設計思想になっていないことが多いのです。小田原で鈴木さんが手がけてこられた、自律分散型のエネルギーインフラ整備は、未来を見越した極めてしなやかなシステムですね。

鈴木 ── 最初から大層なことを考えていたわけではなく、スタートは自社での省エネからでした。日本の発電量の3割を原発に頼っているのなら、その分が不要になるぐらい省エネしてみようと取り組んだのです。すると意外に簡単にできた。そのときに我々のような需要サイドでも、エネルギー問題の解決に貢献できることがたくさんあると気づきました。

東 ── エネルギー問題を語るとき、政府は基本的に供給側の視点からしか話をしませんが、実は需要側の視点が重要ですね。

鈴木 ── 原発問題については、経済界を中心として2割の人たちが、原発がないと産業が空洞化すると訴える一方で、2割の原発嫌いの人たちがいます。残りの6割は、原発は困るけれども、仕事がなくなるのも困ると揺れ動いている。そんな中で、私も経営者の端くれとして考えたとき、本当に原発がないとダメなのかと疑い始めました。全国にいる商工会議所の青年部会長時代の友人たち、つまり地域で頑張っている若手の同業者たちと議論するようになったのです。

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