No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Cross Talkクロストーク

まずは自社から、鈴廣の先進的な取り組み

鈴木 悌介氏

── 鈴廣かまぼこでは先進的な省エネシステムが相次いで導入されています。

鈴木 ── 「一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」では、省エネの徹底と再生可能エネルギーを中心としたエネルギー地産地消の仕組み作りを中心に活動しています。省エネについては、大企業はかなり進んでいますが、中小企業は遅れている。ここに宝の山があると思うのです。

東 ── 遅れているからダメなのではなく、遅れているからこそ、いくらでも改善余地がある。おっしゃる通りだし、エネルギーの地産地消を考える視点がすばらしいです。

鈴木 ── 地域経済活性化の起爆剤に、エネルギーの地産地消はなりうると考えています。会議のメンバーが、地域の中小企業経営者を中心に、現状で400名ぐらいに増えてきているので、今はさらなる布教に取り組んでいるところです。

東 ── 実際に自社で徹底した省エネ、再生可能エネルギーの活用に取り組まれて実績を出されているから説得力があります。具体的には、太陽光発電のほかに、どのような仕組みを採用されたのでしょうか。

鈴木 ── 太陽熱を使った給湯、さらには地中熱と井戸水を使ったハイブリッドの空調システムも取り入れています。例えばドライブインの2階が食堂ですが、そこで使うお湯は太陽熱で沸かしたものです。太陽光発電で電気を作ってお湯を沸かすよりも、太陽熱を使った湯沸かしのほうが、はるかに効率的なのです。

[図1] 太陽熱給湯シシテム(左)と地中熱換気システム(右)
提供:鈴廣かまぼこ株式会社
太陽熱給湯シシテム地中熱換気システム

東 ── いま私たちがいる本社ビルのこの部屋は、空調がよく効いていてとても快適です。これはハイブリッド空調システムによるものなのですか。

鈴木 ── 結論からいえば、地中熱は要らなかったようです。このビルの空調は基本的に井戸水を利用したヒートポンプシステムでまかなわれていて、ほかにも太陽光発電や建物自体の高断熱化、集光装置により自然光を取り入れるなどの対策によってZEB*3となっています。

東 ── 井戸水は、年間を通じて温度が一定しているから、外気が暑いときには井戸水を通すことで冷却される。その冷えた空気を冷房用に使っているのですね。逆に外気が冷たい冬には、井戸水によって空気が暖められる。実に効率的なシステムです。

[図2] 創エネ・省エネ・畜エネにつながる様々な設備が導入されている鈴廣かまぼこ株式会社ビル
提供:鈴廣かまぼこ株式会社
創エネ・省エネ・畜エネにつながる様々な設備が導入されている鈴廣かまぼこ株式会社ビル
[図3] 井戸水を利用した空調設備の送風口(右上)と太陽光を利用した自然彩光設備(右中)
提供:鈴廣かまぼこ株式会社
井戸水を利用した空調設備の送風口(右上)と太陽光を利用した自然彩光設備(右中)

エネルギーを熱から考える視点

鈴木 ── いまの東さんの言葉に、再生可能エネルギーを地産地消で回す上で決定的に重要な考え方が含まれています。

東 ── それは「熱」ですね。

鈴木 ── おっしゃる通りです。エネルギーというと、無意識のうちに電気をイメージしてしまいがちですが、エネルギー=電気ではありません。日本のエネルギー消費を見ても、最終エネルギーのうち電力として消費しているのは、全体の3割に過ぎないのです。残りの7割は熱として使っているにもかかわらず、エネルギー問題というときには電源の話しかしません。

東 ── 電源確保には大規模発電が不可欠であり、とはいえ地球温暖化問題に対応するためには、これ以上CO2を増やす火力発電を増やすことはできない。そうなると残された手段は、原子力発電しかないという考え方ですね。

鈴木 ── ところがエネルギーを熱と考えると、エネルギー問題の見え方が一変します。大規模発電所を前提とした発電・送電などの電力システムは、従来型のいわゆる電力系統に頼るのが効率的でしょうが、電気ではなく熱を主体として考えるなら、地産地消の分散型システムも選択肢となりうる。これに太陽光などの再生可能エネルギーによる発電を組み合わせれば、各地域でエネルギーを賄える可能性が出てきます。

東 ── 鈴廣という一企業での成功事例を、地域に広げたのが小田原箱根エネルギーコンソーシアムだと伺っています。

[後編あらすじ]

省エネを徹底して自社ビルのZEB化に取り組んだ鈴木氏は、エネルギーの地産地消システムが、地域活性化につながることを悟る。そこでまず地元小田原で行政を巻き込んだ活動に取り組み、次には全国へとその動きを広げていった。後編では、その「小田原モデル」を紹介しながら、これからの社会に望ましいエネルギーシステムのあり方について語ってもらう。

[ 脚注 ]

*3
ZEB:
経済産業省の「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」。消費する一次エネルギーが、年間で概ねゼロとなる建築物が認定される。この定義には、屋根の上に置いた太陽光発電設備など自然エネルギーにより生み出したエネルギーも一次エネルギー削減分として計算される。経産省は、2030年までに新築の建物をすべてZEBにすることを目標としている。

対談を終えて

Profile

鈴木 悌介氏

鈴木 悌介(すずき ていすけ)

1955年神奈川県小田原市生まれ。

鈴廣かまぼこグループ代表取締役副社長
一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 代表理事
小田原箱根商工会議所会頭

上智大学経済学部卒業。1981年から1991年まで米国ロサンゼルスにてスリミ、かまぼこの普及のため、現地法人の立ち上げと経営にあたる。帰国後は家業の鈴廣の経営に参画。

慶応元年(1865年)創業の歴史を尊重しつつ、変化し続ける日本人の食生活の中で、かまぼこの存在価値を高めるべく「食べもののいのちを大切に」をモットーに挑戦の日々をおくる。

日本の元気は地域からと、地域の資産を活かした地域の活性化と自立を目指す様々な活動に参画。

商工会議所活動では、2000年から’01年度小田原箱根商工会議所青年部会長、’03年度日本商工会議所青年部会長、アジア商工会議所連合会若手経営者委員会副委員長を歴任。
合同会社 まち元気小田原 代表社員、一般社団法人 場所文化フォーラム 理事。
著書に「エネルギーから経済を考える」。

東 博暢氏

東 博暢(あずま ひろのぶ)

1980年生まれ。

株式会社日本総合研究所 プリンシパル(崇城大学 客員教授)

大阪府立大学大学院工学系研究科電気情報系専攻(現:電子・数物系)博士前期課程修了。2004年より特定非営利活動法人にて、ベンチャー支援や社会企業家育成支援、ソーシャルメディアの立ち上げを経て、2006年日本総合研究所入社。

現在、政府や海外技術系シンクタンク・アクセラレーション・ベンチャーキャピタル等と連携し、バイオ・ライフサイエンス・人工知能等の科学技術の商業化を推進するオープンイノベーションプログラムを実施し、イノベーションを推進、技術系スタートアップ支援・起業家育成にも取り組む。

また、住民や地域の課題解決の為にIoTやAI等のICT技術を利活用した官民連携次世代都市開発プロジェクトを国内外で推進。内閣府や総務省、経済産業省の政府委員を歴任し政策支援も実施している。その他、一般社団法人日本スタートアップ支援協会の顧問等、様々な外部組織のアドバイザーも務めている。

Writer

竹林 篤実(たけばやし あつみ)

1960年生まれ。ライター(理系・医系・マーケティング系)。
京都大学文学部哲学科卒業後、広告代理店にてプランナーを務めた後に独立。以降、BtoBに特化したマーケティングプランナー、インタビュワーとしてキャリアを重ねる。2011年、理系ライターズ「チーム・パスカル」結成、代表を務める。BtoB企業オウンドメディアのコンテンツライティングを多く手がける。

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK