No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Cross Talkクロストーク

エネルギーから地域を見直す視点

鈴木 悌介氏

── エネルギー=電気と捉えるのではなく、熱にフォーカスすることで地域エネルギーのあり方が大きく変わるようです。

東 ── 地域が、自立分散型のエネルギーシステムを整備し、エネルギーの地産地消を進めるのは、これからの日本のあり方を示唆していると思います。そもそも地域から税金を中央政府に集めて、地方に再交付する、現在の財政システム自体も限界に来ています。

鈴木 ── 先にも述べましたが、中央集権システムと小型自立分散型のシステムで考えれば、今後は後者に向かった動きが本格化していくでしょう。

東 ── 行政のマネジメント自体も変わるべきタイミングに来ていて、従来の自治体単位でエリアを区切ってのサービス提供システムは、限界に達しています。一方でこれからの主役になる今の若い世代の間で、シェアリングの考え方が普及している点に着目すべきです。彼らはクルマはもとより、家も持ちたいとは思っていません。

鈴木 ── シェアリングといえば、小田原ではソーラーシェアリングも進めています。約300坪の田んぼの上で50キロワットの太陽光発電を行うのです。というと、農業を潰すつもりかとお門違いの批判をされることがありますが、まったく逆です。

東 ── 売電収入が農家を支える仕組みですね。

鈴木 ── そのとおりです。実際、300坪の水田で稲作をしても、年間10万円の収入にしかなりません。ところが、これにソーラーシェアリングの売電収入が年間150万円上乗せされると、どうなるでしょうか。しかも田んぼの上にソーラーパネルを張り巡らせても、稲の生育には何の悪影響も及ぼさないことが確認されています。

[図4] 小田原市で進められている水田を利用した太陽光発電事業「ソーラーシェアリング」。
農家は稲作での収入に加え売電収入も得ることができる
出典:「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議
小田原市で進められている水田を利用した太陽光発電事業「ソーラーシェアリング」

求められる地域づくりのストーリー

東 ── 水田という土地を、稲作と太陽光発電でシェアする考え方であり、未来に向けたストーリー性も感じられます。鈴木さんが実践しておられる活動には、いずれもストーリー性があり、そのストーリーが若い世代を巻き込む力になっていると感じます。

鈴木 ── 私が意識しているのは、仕組みだけ作っても人は動かないということ。この教訓を私は、震災時の活動で学びました。震災が起こった3月、被災地はまだ寒い季節です。そこで箱根町の町長さんと小田原市の市長さん、そして旅館組合に話をつけて、被災者を箱根の旅館で受け入れる仕組みを整えました。送迎用のバスも用意して、700人の受け入れ態勢を整えたにもかかわらず、実際の利用者は若干名にとどまりました。結局、いくら仕組みを作っても、人は顔の見える人間同士の関係がないと、動かないのです。

東 ── 勉強になります。ところでこれからの地域づくりを進めていくには、そのための資金が必要です。私はここで注目すべきポイントが2つあると考えていて、1つはタンス預金をいかに活用していくのか、もう1つはその受け皿となるSIB(Social Impact Bond)です。

鈴木 ── SIBとは、社会課題を解決するための資金調達の手段として、最近注目されていますね。

東 ── SIBは2010年に英国で始まった官民連携のプロジェクトファイナンス手法で、医療・介護、エネルギーなど社会的課題の解決が必要とされる分野が投資対象となります。今後、団塊世代が後期高齢者入りしていく状況を踏まえるなら、彼らにSIBを買ってもらい、その資金を地域の起業家に配分し、地域を活性化する手法が望ましい。

鈴木 ── その際のキープレイヤーとなるのが、地域の金融機関、具体的には地銀や信用組合ですね。彼らは今、アメリカのREIT*1などを扱っていますが、そんなおかしな状態は一刻も早く改めるべきです。最近、ローカルファイナンスをテーマとした研究会を立ち上げたのも、そうした思いに駆られてのことです。

[ 脚注 ]

*1
REIT: 投資者から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買益を原資として投資者に配当する商品で、一般的に「不動産投資信託」とよばれている。
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