No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Cross Talkクロストーク

地方から中央への働きかけを加速する

東 博暢氏

── 他にも「気候変動イニシアティブ」立ち上げに関わるなど、多方面に亘る活躍をされています。

鈴木 ── 気候変動イニシアティブは、気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、NGOなどの情報発信や意見交換を強化するための、緩やかなネットワークです。「脱炭素化をめざす世界の最前線に日本から参加する」という宣言に賛同する104の企業や団体、自治体などが立ち上げ時に参画してくれました。

東 ── これからも参加する団体を増やしていかれるのですね。その狙いは、どのようなものでしょうか。

鈴木 ── こうした大きなテーマについての議論はこれまで、霞が関と永田町の間だけで行われてきました。その議論には、我々のような中小企業はもとより、地域の声は汲み上げられていません。そこに一石を投じたいと思ったのが一つであり、もう一つには逆の流れも意識しています。

東 ── 逆の流れというのは、気候変動という大きなテーマを、地域や中小企業にも考えてもらう動きと理解すればよろしいのですね。

鈴木 ── そのとおりです。地域の中小企業は、気候変動の話などまったくの他人事と思っています。それよりも人手不足への対処や今日の売上、今月の資金繰りにとらわれています。だからといって気候変動を無視して良いわけはなく、きちんと対応していかないとまずいし、逆にいえばビジネスチャンスが転がっている可能性もある。そうした話を地域の経営者にも伝えていく必要があると考えます。

東 ── 地域から声を上げる必要性は、私も痛感しているところです。例えば、スマート農業を推進するためにロボットを活用する話が出ています。そこで問題になるのが、農場を動くロボットへのエネルギー供給です。期待されるのがワイヤレス給電などの場所に依存しない給電方法で、そのためには電波行政に働きかけて、周波数の使い方を変えなければなりません。ここで基本設計を誤ると、将来的に取り返しのつかない事態になる恐れがあり、ここ5年ぐらいが重要な局面だと考えています。そこで必要なのが、地域の生の声を中央に上げることです。

[図5] 2018年7月6日に設立された「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative)」
提供:鈴廣かまぼこ株式会社
2018年7月6日に設立された「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative)」

求められるまちづくり・地域経営エヴァンジェリスト

鈴木 ── 同じような構図が、SDGs*2にも当てはまります。2015年に世界の193カ国が合意した国際的なルールに対して、中小企業はあまりにも無頓着です。

東 ── 昨年ぐらいから、言葉として「SDGs」が独り歩きしているような感覚がありますが、その実態が正確に伝わっているとは言えないようです。

鈴木 ── ところがApple社などは「RE100*3」を達成していて、下請け企業にも「RE100」を求めてきます。そこで、あわてて太陽光発電を導入して、当社の製品づくりは再生可能エネルギーで行っていますなどと弥縫策(ビホウサク)に走ることになる。そうでもしないと受注できなくなりますから。

東 ── そうした状況に追い込まれて初めて、SDGsに関心を持つようでは手遅れになりかねません。

鈴木 ── 一方で、重要な163項目をつぶさに見ていけば、中小企業でも達成している項目があるはずです。それを積極的に発信していかないと、もったいないでしょう。逆に考えれば、SDGsは世界共通言語なわけだから、うちはきちんとやっていますといえば、それで世界中に通じる。うまく使えば、新たなビジネスチャンスが出てくる可能性があるのです。

東 ── 省エネに始まり、創エネからエネルギーの地産地消システム、さらに地域から日本全体を見据えた動きまで、鈴木さんの動きはまさにまちづくり・地域経営エヴァンジェリストと呼ぶにふさわしいと感じています。特に安易に公的資金に頼らない姿勢や、エネルギー問題の本質を電力ではなく熱と看破して課題解決を図る慧眼など、今日の対談では非常に多くの学びを得ました。今後の課題は、鈴木さんのようなまちづくり・地域経営エヴァンジェリストの後継者を育成することだと思います。これからもいろいろご教示いただけますようお願いいたします。

[図6] SDGs(Sustainable Development Goals)は、持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットから構成されている
出典:国際連合広報センター 持続可能な開発目標(SDGs)
SDGs(Sustainable Development Goals)は、持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットから構成されている

[ 脚注 ]

*2
SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月の国連サミットで採択された、国連加盟193か国が2016年〜2030年の15年間で達成するために掲げた目標を意味する。
*3
RE100:使用する電力の100%を再生可能エネルギーにより発電された電力にする事に取り組んでいる企業が加盟している国際的な企業連合。

対談を終えて

Profile

鈴木 悌介氏

鈴木 悌介(すずき ていすけ)

1955年神奈川県小田原市生まれ。

鈴廣かまぼこグループ代表取締役副社長
一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 代表理事
小田原箱根商工会議所会頭

上智大学経済学部卒業。1981年から1991年まで米国ロサンゼルスにてスリミ、かまぼこの普及のため、現地法人の立ち上げと経営にあたる。帰国後は家業の鈴廣の経営に参画。

慶応元年(1865年)創業の歴史を尊重しつつ、変化し続ける日本人の食生活の中で、かまぼこの存在価値を高めるべく「食べもののいのちを大切に」をモットーに挑戦の日々をおくる。

日本の元気は地域からと、地域の資産を活かした地域の活性化と自立を目指す様々な活動に参画。

商工会議所活動では、2000年から’01年度小田原箱根商工会議所青年部会長、’03年度日本商工会議所青年部会長、アジア商工会議所連合会若手経営者委員会副委員長を歴任。
合同会社 まち元気小田原 代表社員、一般社団法人 場所文化フォーラム 理事。
著書に「エネルギーから経済を考える」。

東 博暢氏

東 博暢(あずま ひろのぶ)

1980年生まれ。

株式会社日本総合研究所 プリンシパル(崇城大学 客員教授)

大阪府立大学大学院工学系研究科電気情報系専攻(現:電子・数物系)博士前期課程修了。2004年より特定非営利活動法人にて、ベンチャー支援や社会企業家育成支援、ソーシャルメディアの立ち上げを経て、2006年日本総合研究所入社。

現在、政府や海外技術系シンクタンク・アクセラレーション・ベンチャーキャピタル等と連携し、バイオ・ライフサイエンス・人工知能等の科学技術の商業化を推進するオープンイノベーションプログラムを実施し、イノベーションを推進、技術系スタートアップ支援・起業家育成にも取り組む。

また、住民や地域の課題解決の為にIoTやAI等のICT技術を利活用した官民連携次世代都市開発プロジェクトを国内外で推進。内閣府や総務省、経済産業省の政府委員を歴任し政策支援も実施している。その他、一般社団法人日本スタートアップ支援協会の顧問等、様々な外部組織のアドバイザーも務めている。

Writer

竹林 篤実(たけばやし あつみ)

1960年生まれ。ライター(理系・医系・マーケティング系)。
京都大学文学部哲学科卒業後、広告代理店にてプランナーを務めた後に独立。以降、BtoBに特化したマーケティングプランナー、インタビュワーとしてキャリアを重ねる。2011年、理系ライターズ「チーム・パスカル」結成、代表を務める。BtoB企業オウンドメディアのコンテンツライティングを多く手がける。

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