No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Expert Interviewエキスパートインタビュー

盛次 隆宏氏

電力システムの形が変わり、より価値の高いサービスを需要家に提供

── これまでは、地方に建設した大きな発電所で大電力を生み出し、長い送電線を経由して運んで、都市の旺盛な電力需要を賄うという図式の電力システムが普通でした。これからは、電力システムの形が大きく変わりそうです。

その通りです。電力を使う場所の近くで発電し、そこで蓄電して、必要に応じて自由に使えるようになります。小さな発電所を、消費する場所の近くに分散配置した方が、よほど効率的で効果的な電力活用ができるのです。

こうした電力システムでは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを“分散型エネルギー(Distributed Energy Resources:DER)”として利用します。特に、太陽光発電のコストはどんどん低下しています。そして、一般家庭では、電力会社から電力を買うよりも、自前の発電所を持った方が安くなりつつあります。ただし、太陽光や風力などを活用する分散型エネルギーは、消費したい量の電力を都合よく作り出せるわけではありません。また逆に、作りすぎて余らせてしまうこともあります。このため、発電した電力を溜めておく設備が必須になります。そこで、分散型エネルギーでは、蓄電池やEVをセットで利用することになります。

さらに、分散型エネルギーに基づく電力システムを円滑に運用するためには、それぞれの機能を柔軟かつきめ細かく制御するためのシステムと、それを運用するサービスが必要になってきます。ここには技術的な新しいアイデアが入り込む余地がたくさんあります。例えば、“バーチャル・パワー・プラント(VPP)”と呼ぶ、数多くの分散型エネルギーをまとめて制御して、あたかも 1つの発電所のように機能させるシステムが必要になってくると考えています。

[図1] バーチャル・パワー・プラントの概念図
規模の小さい自家発電設備や太陽光発電、蓄電池などをまとめて制御することにより、あたかもひとつの発電所のように機能させる。
提供:株式会社エナリス
バーチャル・パワー・プラントの概念図

── 既存の電力大手が、想定していなかったような電力システムが出来上がりつつあるわけですね。分散した発電設備や各家庭での電力消費をつぶさに制御するには、それぞれの動きを詳細に把握する必要がありそうです。

当然、通信技術によって電力の動きに関する情報を収集することになります。通信技術を活用することによって、電力システムに新たな価値を付加できるようになります。例えば、電力の消費状況には、消費した人のライフスタイル、生活の情報がたくさん入っています。朝起きてテレビを見る、外から帰ってきて照明を点けるといった動きは確実に分かります。また、それぞれの機器の電力利用状況からは、故障や機器の利用期間といったことまで分かります。こうした情報を基に、新しいビジネスを生み出すことが可能です。例えば、見守りサービスや家電製品の買い替えを促して広告を出すといったビジネスを展開できるでしょう。

また、こうした情報は電気料金のメニューを増やすことにも使えます。これまでは、使った分だけ料金を払うスタイルが普通でした。しかし電力の供給と需要が多様化している現代では、もっといろいろなスタイルがあっていいはずです。電力には、余っている時間帯と足りない時間帯があります。電力を使っている人が少ない夜間帯では、1カ月定額で使い放題のサービスがあってもいいわけです。今後は、電力消費量や各家庭での発電の状況などに応じて、電気料金をきめ細かく変えて、よりニーズに合ったプランを選べるようになるかもしれません。

── 電力は、社会活動の基盤でもあります。その基盤を支えるシステムに大きな変革が起きれば、社会にも大きなインパクトをもたらしそうです。

日本では、毎年20兆円の燃料を輸入して発電しています。また、遠隔地の火力発電所などで電力を作ると、最終的に消費する工場やビル、家庭まで送る過程で、投入した燃料の総エネルギーのうちの約5%を損失してしまいます。しかし、工場やビル、家庭に太陽光発電システムを取り付ければ、日本の国富を必要以上に海外に持ち出さなくて済みます。

また、エネルギー調達は、国際紛争の種にもなります。海外から買ってきた燃料を投入することなく、太陽光など自国内で調達できるエネルギー源を電力に変えて利用できれば、こうした争いもなくなることでしょう。これからの世の中に欠かせない存在になる電気自動車(EV)やロボットもすべて電力で動くわけですから、太陽光などの限界費用0の再生可能エネルギーを使えば輸送や製造の概念が根本から変わる可能性だってあります。

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