電力の地産地消は理にかなっている

── 分散型エネルギー社会に向けて、既に具体的なビジネスを始めているのでしょうか。

エナリスが、プロサッカーチームの湘南ベルマーレと共同で出資して設立した湘南電力では、地域内での電力の地産地消を後押しする取り組みを進めています。湘南電力は、神奈川県で作り出した電力を優先的に調達し、県内の顧客に提供しています。電力事業は、どうしても価格勝負になりがちですが、地域の電力を使うことで新しい価値をつけようとする試みです。ここで上げた収益の一部を地域貢献活動に使っていることが、地域住民に対する訴求点になります。例えば、湘南ベルマーレが開催する健康づくり教室や子供向けサッカー教室などに還元しています。ほかにも、平塚市では、市内の小中学校43施設に地元産の電力を供給していますし、小田原市では市内の幼稚園や小中学校に地元産の電力を供給すると共に、一部施設に蓄電池や太陽光発電システムを設置して、エネルギー・マネージメントを行っています。

── 電力会社を選ぶとすれば、やはりまず価格が最も重視される比較項目になると思うのですが、地域密着型という訴求点は住民に響くのでしょうか。

まず、湘南地区は、地元に誇りを持った人が多いという背景があるかと思います。加えて、ドイツなどで実際にこうした地域電力が強いという実績があるようです。ドイツでも、電力自由化を契機に数多くの電力会社が生まれましたが、時が経つと共に統合が進んで数が少なくなっています。しかしその中でも、地域電力は生き残っている例が多く見られるんです。そもそも電力の原理原則から見れば、地域電力や分散型エネルギーは理にかなっていると思います。遠方から電力を運ぶと、損失も大きくなるからです。

── 分散型エネルギーや需要の制御では、どのような取り組みをしているのでしょうか。

兵庫のスマートシティ潮芦屋「そらしま」で、117戸を対象にしたマイクログリッドを構築し、運営しています。ここでは、対象地域内に配電する電線を、エナリスとパナソニックホームズが共同で引きました。電力会社からの送電線は1本だけです。そして、そこでのエネルギー・マネージメントは、全てエナリスが行っています。

各家庭には、すべて太陽光発電システムと蓄電池を設置しており、できるだけ電気を自家消費できるようにしています。ここでは、自分の家の蓄電池が一杯になったときに、隣の蓄電池の蓄電するような管理をして、なるべく無駄なく生み出した電力を活用できるようにしています。

── 分散型エネルギーの活用がやりやすい地域とやりにくい地域があるのでしょうか。

やりやすさに地域差は感じませんね。太陽光は、日照条件などに多少の違いはありますが、基本的には太陽はどこでも照っているので、それほど条件は変わりません。このため、日本中のどのような地域でも、分散型エネルギーの活用や地産地消に取り組むことは可能だと思います。

── 電力事業という社会の基盤を作るビジネスにベンチャー企業のアイデアが生かせる今は、まさに千載一遇のチャンスで満ちているように見えます。

その通りです。とても楽しい時代を迎えている業界だと思っています。ただし、私たちには同時に、まだまだやるべきことがたくさん残されていると感じています。様々なイノベーションとビジネスを一緒に作り上げる人材が足りていません。意欲を持った若い人たちにたくさん集まって欲しいと願っています。