No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Expert Interviewエキスパートインタビュー

吉田 哲氏

スマートビルからスマートシティもカバー

── 現在はスマートシティ、スマートビルディングに向けて、どのような取り組みを図っておられますか?

中谷 ── 当社はソフトバンクと共同で実証実験をしながら、その一方で、いろいろな企業より実業務としてIoT関連のコンサルティングを請け負っています。こうした現状をベースにしたビジネス展開は五つあります。

一つ目は、スマートシティやスマートビルディングのビジョン構築。現状どのような技術があり、どのような適用可能性があるのかといった情報を提供しながら、ビジョンを作りこんでいく作業です。

二つ目は、その先にあるエンジニアリング的な設備設計業務です。

そして三つ目は人流分析で、都市レベルや建物レベルで人がどう動いているのかを分析します。この業務では膨大なデータが生まれてくるので、データの扱いについて検討しているところです。

四つ目はソフトウェアです。これはソフトウェアベンダー*2やソフトバンクと共同でプラットフォームを作り、その上で走らせるAPI*3を構築するという作業です。この業務では、基本的にデータを預からないと思います。ただし、例えばこのデータを持っている企業がデータを利用して省エネ化を図りたいとのことであれば、コンサルティング業務を請け負います。

五つ目は、ワークプレイス(働く場所)そのものです。これはまだ実証実験レベルですが、例えばオフィスの生産性向上を目指し、オフィス内の無駄な時間を1%削減できれば、1%のバリューを提供できることになります。エレベーターの待ち時間や会議室の予約をはじめ、オフィスの中の無駄な時間をどうIoT化して無駄な時間を削減するか、といったことが課題です。

これらの内、いくつかのプロジェクトはすでに動いていますが、今の段階ではまだ明らかにできません。相手の企業との守秘義務がありますので。

── 日建設計というと大手の建築設計事務所、というイメージがあります。今後は、オフィスや働き方改革を含め、データを利活用したサービス提供へ進まれるのでしょうか?

中谷 ── はい、当社にはアクティビティデザインを担当している部署がありまして、「ハコ」の中でのアクティビティを高める提案をコンサルティングのチームと一緒に進めています。

吉田 ── これまではハコを作るだけでしたが、今後はワークプレイスの提案が重要になってきます。日建アクティビティデザインのチームは、デザイン決定から入るのですが、今まではそのエビデンスを定量的に測れませんでした。これからはIoTなどを活用して、ビルを建てた時の定量的なデータを集めようと考えています。これが次の新しいエビデンスとして提案できるものにつながるわけですから、データを集めることは重要です。

空間の使い方とエネルギーの使い方を掛け合わせる

── IoTを使って何を測定すればいいのでしょう。さまざまなセンサーがありますが、どのようなセンサーで何を測ろうとしているのでしょうか?

中谷 ── 今は人の流れの計測を、シームレスにいろいろなレベルで測定する作業を進めています。あとは、エネルギー関連の情報、エネルギーそのものの測定やコスト単位での測定などがありますね。ただし課題もあります。例えば、電流センサーを付けて各部屋の照明の消費電力などを測定することは現在でもできますが、全館に取り付ける場合にはコストが非常に高くなります。実証実験ならそれでよくても、そのデータがどのような価値を生み出せるかが明確になっていなければ、クライアントに提案するわけにはいきません。

ほかにも、既存のビルを改修することで、より便利にできるかという課題もあります。再開発のビジョン構築では最新鋭の機器を導入することになりますが、より本丸に近いのは既存ビルで合理的な予算を使い、手軽なセンサーで測定し、限定されたデータの可視化を行うということになるでしょう。

── 照明系だと、センサーを使って明るい場所は照度を落とし、暗い場所は明るくする、ということは可能ですね。こうしたことも含まれていますか?

吉田 ── そのような省エネ化はむしろ機器メーカーがやりますので、当社は照明の変化と人の使い方の変化を掛け合わせるとか、空間の使い方とエネルギーの使い方をどう絡めていくのか、といったことに強みを発揮していきたいと思っています。また、これからは新築よりも改修案件の方が多くなってきますので、当社としては建物の空間がどのように使われてきたかを知り、どのように改修すればオーナーやテナントの経営コストの削減や価値の向上につながって行くのか、といったところに焦点を置いています。実証実験を含めて最低限、これらの目標のメドが立つようにしていきたいと思います。

コストを無視すれば、あらゆる場所にIoTセンサーを付けて膨大なデータを得ることができますが、実用的ではありません。そのため、リーズナブルなコストで価値を向上させられる応用を狙います。そうでなければ市場は広がりません。

[ 脚注 ]

*2
ソフトウェアベンダー:ソフトウェアを提供する会社のこと。
*3
API:Application Programming Interfaceの略。システムやソフトウェア同士が互いにやりとりするためのインタフェースの仕様のこと。
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