No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Expert Interviewエキスパートインタビュー

吉田 哲氏

オープンプラットフォームを目指す

── クラウド上でIoTのシステムに向いたプラットフォームはたくさんありますが、そういったところと組むこともあるわけですね?

吉田 ── 排他的にするつもりはなく、常にオープンな仕掛けで、どこからプラグインしても対応できるようなIoTシステムにしたい、と考えています。

中谷 ── 当社では設計事務所として、常に開かれたネットワークで設計しています。この種の取り組みが進んでいるのはメーカー数社や、通信キャリア、あるいはグローバルなIT企業ですが、ディベロッパさんには特定の企業とは紐付けしたくないという顧客が多いのです。皆さん、情報が乏しい中で特定のメーカーを利用することは危険だと考えています。また、IoTは一つのデバイスだけでは解決できないため、いろいろなデバイスを組み合わせるとしたら、一般のオフィスオーナーがこれらを検討するのはほぼ不可能に近い状況です。ですから、広範なネットワークを持ちいろいろな会社の情報が集まる当社が手掛けていこうと考えています。

── そのようなIoTプラットフォーム的な仕掛けでは、その規模を大きくするとスマートグリッドのサービサーというビジネスにも発展できそうですが。

中谷 ── そこまで行くハードルは高いのですが、既に街レベルの取り組みが可能なレベルに近付いています。

吉田 ── 私たちは設計事務所なので、いろいろな情報のレイヤーに建物の空間や動線、街のプランニングなどを掛け合わせたものではないと、自らの強みを出せないと思います。スマートグリッドのエネルギーだけだと、電力系の専門企業がサービサーとなるでしょうが、例えばエネルギーと床面積を組み合わせたものというように、今までとは違う切り口でオーナーやクライアントにサービスができればいいなと考えています。

── 街レベルでの取り組みは目前に来ていると言われましたが、具体的にはどのような取り組みをされていますか?

中谷 ── 数十万平米もあるような大型再開発です。この規模のプロジェクトは都内でもありますし、すでに取り組みを始めています。これは1棟だけの話ではありません。

吉田 ── 当社にはシンクタンクもありますので、自治体や官庁への提言も行っています。例えば災害が起きた時の避難や、インバウンドの旅行者の動向などを、ロケーションを取りながら追跡することによって、こちらへ逃げなさいといった指示を、より有効に伝達する試みも始めています。

すなわち、こういうデータがあるので、それをつなげれば新しいことができます、と提案しているところです。企業はそれぞれの業界内で活動しているので、他業界のデータを掛け合わせるという発想がなかなかありません。だから当社がそれを行おうとしているのです。どのようなデータを使えば希望のことができるのか、というコンサルティングもしています。

具体的には、ソフトバンクの携帯電話のロケーション情報を匿名化したデータがあります。これにより、どの国の人が今どこにいる、というような情報が得られます。この情報と、何をつなげればよいのか、という視点にはまだ気づかれていないので、このあたりのコンサルティングを行っています。商業ベースから言えば、自分の店にどのようなルートで顧客が来ているのかがわかれば、次の出店すべき場所がわかってきます。

中谷 ── この辺りは個人情報との兼ね合いが強いので、慎重に検討しています。

当社は、コンサルティング提案、ビジョン構築、コンセプト構築、実装、場合によっては人流分析に至るまで提案できます。

ソフトバンクとの提携による実証実験は始めたばかりですが、今年の末から来年の初めにかけて、その結果を発表したいと思っています。

── 日建設計はシミュレーションツールを使いこなしてきた大手企業ですので、シミュレーションツールに関するビジネスもできるのでは?

中谷 ── 当社には人流解析プログラムがあり、交通・人流シミュレーションも得意です。例えば、海外の巡礼地などで混雑を緩和する建築プランと共に交通シミュレーションも提供しています。これらのシミュレーションは、コンサルティングサービスの一環として提供しますが、いまのところ外販はしていません。

吉田 ── 当社は顧客ごとにコンサルティングして、一品ごとにシミュレーションサービスを提供していますので、標準化して外販することは得意ではありません。今回のソフトバンクとの協業で標準化できる可能性はないとは言えませんが、当社は1社ごとのカスタマイズでやってきた企業なので、標準化は難しいでしょうね。ただし、ソフトウェアのオープン化には取り組んでおり、標準化をどうするかについて模索しているところです

鈴木 悌介氏

中谷 憲一郎(なかたに けんいちろう)

株式会社日建設計 執行役員
プロジェクト開発部門プロジェクトマネジメントグループ代表
兼ICT担当
兼ファシリティソリューション部長 兼IOT推進室長

1993年東京大学工学部建築学科卒業、同年日建設計入社。 設計部門に配属し、意匠設計業務に従事。2000年より、建築関連のコンサルティングやマネジメント業務を遂行する部署の新規設立に伴い、異動。不動産取引のデューデリジェンス、自治体・企業の施設維持保全のコンサルティング、建設プロジェクトのマネジメント業務などに従事。2018年、IoT技術活用を目的としたIoT推進室を設立し、室長として従事。

東 博暢氏

吉田 哲(よしだ てつ)

株式会社日建設計 設計部門3Dセンター室長
兼DDL室長 兼CGスタジオ室長 兼IoT推進室室長代理

一級建築士。大阪大学大学院修士課程修了。1990年日建設計入社。最初の仕事はCGアニメーション制作システムの構築から。その後コンピュータを用いた3次元設計を入社以来行っている。主な作品は、国立国際医療・研究センター病院、国立感染症研究所村山3号棟、信楽園病院、富士吉田市立病院など。参画したコンペ・プロポーザルは200以上。その後、経営企画に移り4年間組織の仕組みづくりやICT環境の企画・整備を行う。7年前からデジタルデザイン領域でデジタルプレゼンテーションとBIM推進を行い、現在はもっとも重要なInformationを主軸に社内外でのBIMやAI利用等デジタルデザインを促進する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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