No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Expert Interviewエキスパートインタビュー

中谷 憲一郎氏

── 昨年の発表では、60年で40%のコスト削減という目標を掲げられていたわけですが、このビジョンも進めていきますか?

中谷 ── 実際にコスト試算を行ったところ、複合的に施策を行えば、その程度の削減は可能だと見ています。ただ、今のところ実現できているわけではありません。デベロッパーやクライアントによって関心の方向性が違うので、採用いただける技術を提供していきます。

吉田 ── いきなり4割削減ではなくで、現状でも当社では一般的なビルに比べて3割は削減できるような設計を行っているので、4割削減はそれほど高いハードルではありません。既存のオーナーに対しては、いきなり4割削減を提案するのではなく、センサーなどのシステムにコストをかけていただければ、4割に近い削減はできるのではないかという提案をしているわけです。また、そのための実証実験でもあります。

── 設備管理や清掃、警備の最適化もできると発表当時のニュースリリースに述べられていますが、これらについて具体的な応用を教えてください。

吉田 ── 特に清掃については、人流を解析することで、「ビル内のどこが最も使われているか」を可視化できるようになります。それがわかると、ほとんど使われていない空間は清掃頻度を下げることができ、大勢が使っている空間は清掃の頻度を上げることができます。このようにしてユーザーの満足度を上げていくわけです。

デジタルツイン*4も可能に

── ソフトバンクは清掃ロボットを持っています。ロボットの活用は考えておられるのでしょうか?

中谷 ── ビル管理の業界では人手不足が徐々にクリティカルになってきていて、コストをかけても人が集まらない状況が目前まで迫っているところです。ロボットだけですべて賄うことは無理ですが、人と組み合わせて配置することで、人手を減らすことはできます。

吉田 ── 警備については、ソフトバンクもやっていますが、カメラなどで人の動きを監視し、画像認識の AIに学習させておけば、異常な動きを検知できます。そして、警備員はAIが異常を検知したら駆け付けるのです。その意味では人員の適正配置ができてくるでしょう。当社は設計事務所ですから、バーチャルなデータを持っています。ロボットには予めバーチャル空間で学習させ、警備のシミュレーションを行わせるといった、事前のシミュレーションが可能です。こうしたデータを使うサービスは、価値向上につながると見ています。いわゆるデジタルツインです。

── シミュレーションを活用するわけですね

中谷 ── 個別の技術はメーカーが強く、それを使うソフトウェアはシリコンバレーなどのスタートアップ企業が優れています。しかし、それらを含めてトータルのソリューションとして提供できる業者がいないので、当社はそれを行おうとしています。実際に、デベロッパー数社から既に仕事をいただいています。

吉田 ── 当社は設計事務所ですから、いろいろなメーカーとお付き合いがあります。当社の図面は特定のメーカーに対応した図面ではなく、汎用性の高い図面です。図面の延長線上にあるセンサーやAPI、OSなどは、メーカーが囲い込む傾向にありますが、ここに当社が入り込むことでオープン化されるので、複数の企業に参加してもらうことができます。例えば現状ではカメラはセンサーよりも汎用性があるので、システムを入れ替えた場合でも、そのまま使える可能性があります。建物のシステムがバージョンアップできないのは、メーカー主導になっているからで、当社のオープンプラットフォームの構想にご賛同いただければ、建物自身のシステムのバージョンアップにも対応できるようになります。こういったことを目指しているところです。

── 集めたデータを管理・制御あるいは解析する場合に、AWS(アマゾンウェブサービス)のようなパブリッククラウドで行うことが多いと思いますが、御社はクラウドを提供しているのでしょうか?

吉田 ── 社内にもオンプレミス*5のシステムはありますが、これを基盤にサービスを始めるつもりはなく、外部のパブリッククラウドを利用するつもりです。AIやディープラーニングなどのデータ解析をしようとする場合、かなりのコンピューティングパワーを必要とするので、1社のリソースでは難しいと言えます。だから外部の大手パブリッククラウド*6を使うことも必要です。

[ 脚注 ]

*4
デジタルツイン: 現場での作業を、コンピュータ上で完全に再現すること。現場(OT)とコンピュータ上(IT)とがまるで双子のように見えることから、そういわれている。
*5
オンプレミス: 情報システムなどで使うサーバやコンピュータを自社内に設置して構築・運用すること。クラウドコンピュータシステムと対比した言葉として使われることが多い。
*6
大手パブリッククラウド: パブリッククラウドは一般の人が誰でも使えるクラウドコンピュータシステム。アマゾンのAWSやマイクロソフトのAzure、Googleなどの大手が一般用のクラウドシステムを提供している。
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