No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Visiting Laboratories研究室紹介

小野田 弘士教授

常に現場が相手、社会との接点で進める研究

TM ── 研究の魅力、面白さはどこにあるのでしょう。

小野田 ── 環境に関わるテーマの場合は、基本的に現場で動くことになります。実験室にこもるのではなく、例えば実際に動いているプラントを対象として調査や解析に取り組むのです。研究の一環として地域エネルギービジネスに取り組む場合なら、地域のニーズに合わせた手法を考える必要があります。研究とはいえ、常に目の前で成果を確かめながら進められるのでモチベーションが高まります。といっても最初から大がかりな取り組みを進めるのではなく、まずはミニマルな実装から始めるのです。

TM ── 身近な実例といえば、次世代モビリティの研究もされていますね。

小野田 ── ULV(Ultra Lightweight Vehicle)*4――超軽量小型モビリティは未来を先取りして経験する乗り物として企画しました。ULVはクルマとはまったく異なる概念の乗り物です。大勢での遠距離移動を考えるなら、それは自動車メーカーが作ったほうが良いわけです。そうではなくモビリティとは、個人のちょっとした移動のしやすさといった概念です。スマートコミュニティにおけるモビリティとは何かを考え、最先端の技術を取り込んでデザインしたらどうなるのか。ULVは、そんな発想から生まれました。

小野田研究室で開発された超軽量エコカー「ULV」
画像提供:小野田研究室
小野田研究室で開発された超軽量エコカー「ULV」

TM ── そのような実験的な取り組みの集大成が本庄のプロジェクトなのですか。

小野田 ── そのとおりですが、少々意欲的過ぎたかもしれません。プロジェクトは現在も継続中であり、日々現場で学びながら、少しずつですが着実に進めています。元々、本庄は遷都の候補地と考えられたほど地の利の良いところで、地域としてのポテンシャルは非常に高いのです。そこにスマートエネルギータウンをつくる構想自体には何の問題もありません。ただ、現実的にものごとを動かしていくためには、構想以外に必要な要素のあることを学びました。

TM ── 必要な要素とは具体的にはどのようなものでしょう。

小野田 ── 例えば、出店する方々の判断基準を慮る(おもんぱかる)ことです。彼らは、再生可能エネルギーを使う意義は理解してくれるけれども、そのために高い設備投資をするとなると、即座にイエスとは言ってくれない。これは当然の話であり、現時点での判断基準がそうだということです。こうした知見を肌感覚で掴んでおかないと、プロジェクトを動かす現実的な提案書はつくれません。

TM ── 理想と現実の間にはまだまだギャップがあるわけですね。

小野田 ── 先にも述べたように環境エネルギーの導入自体を目的と掲げてしまうと、本質を見誤ることになります。本庄スマートエネルギータウンプロジェクトも、その目的はスマートエネルギーによる街づくりではなく、本質的な目的は持続可能な発展を遂げる街をつくることです。スマートエネルギーは目的ではなく、あくまでも街づくりの手段なのです。手段と目的を取り違えてしまうと、ものごとは前に進みません。そして前進するためには、一気に進めようなどと焦らないことです。ミニマルな実装から始めて、徐々に良くなればよいぐらいの気持ちで取り組む必要があります。

TM ── 実地で学ばれた貴重な知見は参考になります。

小野田 ── そんな話を各地でしているからでしょう、今は全国からアドバイザーの仕事が定期的に入ってきます。コンサルタントといってもレポートを書く仕事ではなく、具体的にプロジェクトを動かしていく仕事です。その地域ならではの価値を見つけて、それを各種のスマートプロジェクトに落とし込んで実現していく。これからの日本にとって極めて重要な仕事です。

TM ── だから専門家養成を急ぐ必要があるのですね。

小野田 ── 日本のエネルギーインフラはこれまで、政府とエネルギー事業者が手がける大規模インフラがほとんどで、そこではひたすら効率化が追求されてきました。けれども今後は、自立・分散型に転じていかなければならない。そのためのプロジェクトを各地で動かしていく専門家育成は待った無しの重要な課題です。

[ 脚注 ]

*7
ULV(Ultra Lightweight Vehicle): 早稲田大学永田・小野田研究室で開発された超軽量(車体重量:82kg)の究極のエコカー。環境イベントなどへの出展により、環境意識の普及啓蒙を図るとともに、地域の交通システムを担うモビリティとしての実用化を目指している。
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