No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

EVは本当に退屈なクルマなのか

EVは、本当に退屈なクルマなのだろうか。実際にEVを運転した人の意見を聞くと、印象は一変する。EVを体験した「クルマ好き」と呼ばれる人たちが力説する、エンジン車にはないEVならではの魅力は、大きく2つある(図2)。

[図2] エンジン車にはないEVならではの魅力
作成:伊藤元昭
エンジン車にはないEVならではの魅力

1つは、「とにかく静かで、加速が滑らかでしかも力強い」ということだ。アクセルを踏んだ途端にグイグイ加速していくのを体感すると、エンジン車には戻れないと語る人さえいる。高速な電気信号で制御するモーターを使うのだから、ガスの噴出や燃焼、機械部品といった動きが遅い機構を制御するエンジンより反応が早いのは当然だ。また、あらゆる速さの領域で、太いトルクでしっかりと加速することもEVならではの特徴だ。パワフルなEV向けモーターも開発されてきており、その伸びしろはエンジンに比べても大きい。そもそも、静かでありながら、滑らかで力強い加速は、いつの時代のエンジン開発においても追求され続けてきた開発目標だ。理想のエンジンの行き着く先にあるものは、モーターだったと言っても過言ではない。

もう1つは、「曲がるときに安定感があり機敏」であるということ。これは、エンジン車に比べて、EVの重心が低く、しかも重たい部品が均一に分布していることによる。エンジン車の場合には、重たいエンジンがどこに置かれるかで、FRやRR、ミッドシップといった具合に、曲がるときの性能や車体の設計思想が大きく変わっていた。これに対し、EVは最も重い部品であるバッテリを配置する場所選びの自由度が高く、モーターなど他の重い部品とのバランスも取りやすい。

要するにEVは、エンジン車では到達できない走りの楽しさを実現できるポテンシャルを持ったクルマであるということだ。今後は、いかにそのポテンシャルを引き出す技術を磨くかが、世界中の自動車メーカーにとってのチャレンジテーマになる。

F1など世界のモータースポーツを統括する国際自動車連盟(FIA)は、2014年からEVのフォーミュラーカーによるレース「FIA Formula E Championship」を主催している(図3)。ここには、世界の自動車業界をリードするドイツの主要メーカーのほとんどが参戦し、EV特有の走る技術を磨いている。これまで、日本とアメリカのメーカーは参加していなかったが、2018~2019年シーズンから日産自動車が参戦する。

[図3] EVのフォーミュラーカーによるレース「FIA Formula E Championship」に参戦する日産自動車のマシン
出典:日産自動車のリリース
EVのフォーミュラーカーによるレース「FIA Formula E Championship」に参戦する日産自動車のマシン

EVは、エンジンがモーターに変わるだけではない

クルマの心臓部である動力源がエンジンからモーターに変わると、それに付随して、動力源を安定して動かすための機構、動力源の力をタイヤなどの部品に伝える機構なども一気に変わる。

例えば、燃料供給を制御するスロットルなどは、インバータなどの電気回路に変わる。こんなところも変わるのかという例を挙げればまた、エンジンを循環するオイルの力で作っていた油圧でアシストし動いていたパワーステアリング、エンジンの回転を利用して動いていたエアコンのコンプレッサーや冷却水循環用ポンプなども、すべて電動化するのだ。クルマの内部機構は、まさに総取っ替えといった状態になる。

EVシフトによって、エンジン車よりも部品点数が減少するというメリットもある。もちろんEVにしかない部品も多いが、エンジン車では約3万点あった部品が、3分の2になるとも、半減するとも言われている。さらに、どちらにも搭載される部品であっても、エンジン車向けとは設計思想や構造などを大きく変更しなければならないものも多い。こうしたEVを構成する機構の1つひとつに新しい技術が投入され、熟成されることで、魅力的で新たな価値を持ったEVが生まれる。

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