No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

さて、ここからは様々な変化のうち、クルマの新たな動力源となるモーターの技術開発の動きを紹介していく。

EV向けモーターは、多様な動作条件への対応が命

モーターは、家庭にある様々な家電製品や工場に置かれる工作機器など、様々な用途で使われている。こうしたよく見るモーターと、EVに搭載されるモーターでは、何が違うのだろうか。

まず、家庭用エアコンなどに搭載されているものよりも、EVのモーターは出力が大きい。エアコン用の駆動出力は約3kWだが、EVでタイヤを動かしている代表的なモーターは150kWにもなる。これがスポーツカーであれば、さらに大出力になるのだ。

また、高効率化に向けた設計思想が異なる。家電製品などに使われるモーターは、動作時の回転速度や求められるトルクの範囲が狭いため、動作時の条件に最適化して効率を高めることができる。これに対しEV向けモーターでは、止まっている状態からの発進や走行時の加速、市街地と高速道路での速度の違いなどに対応し、あらゆる場面で効率よく動作することが求められる。

一般に、より多様な動作条件に対応しようとすると、高効率化が難しくなってくる。しかし、電力効率の向上は、クルマの航続距離や環境性能に欠かせないため、様々な動作条件下で少しでも高効率なモーターの開発が求められる。さらに、モーターの小型化は車内空間の広さに、軽量化は運動性能の向上と航続距離に大きく影響するため、それらの観点からの技術開発も求められる。

小型軽量化に向き、高効率な同期モーター

モーターには様々な種類があり、用途ごとに使い分けられているが、大別すると直流式のDCモーターと、交流式のACモーターがある。電動カートの発展版のような気軽な移動手段として使うEVには、DCモーターが使われることが多い。乾電池で動かす模型やラジコンなどに使われているのもDCモーターである。DCモーターは、高度な制御技術を使わなくても利用できるため、安価な製品への応用が向いている。ただし、エンジン車を代替するような本格的なEVには力不足だ。

一方、ACモーターは、回転数やトルクなどを細かく制御できるため、走りや乗り心地にこだわった駆動が可能である。このため、本格的なEVにはACモーターが使われる。ただし、駆動に際しては高度な制御が欠かせず、そこに技術とノウハウの蓄積が必要になる。バッテリの直流電力を、モーターを駆動する交流電力に変えるインバータも必要になる。当然、コストも高くなり、開発期間も長くなる。

さらにACモーターは、同期モーター*1、誘導モーター*2、交流整流子モーター*3の3つに分類できる。このうち、EVに使われているのは、比較的小型・軽量化が容易で高効率な同期モーターである。

駆動する交流電流の精密制御が高性能化の鍵

同期モーターは、ローター(回転子)に磁極が固定した磁石を、ステーター(固定子)に電磁石を用いて、ステーターに流す交流電力で回転する磁界を作り、ローター中心の軸を回す仕組みで動く。交流電力の周波数を変えることで、回転速度を変化させることができ、周波数の制御にはインバータを使う。同期モーターでは、ローターの回転に合わせて、ステーターに流す交流電力の位相をいかに精密に制御できるかが、回転数とトルクの範囲を拡大しながら高効率化するためのポイントになる。

また、モーターの駆動電圧を高くすることで、モーターの回転速度とトルクを高めることができる。さらに、電流を増やさずに、電圧を高くすることで高出力化すれば、モーター内での電力損失が減り、高効率化が実現する。これらの制御の要となるインバータの技術については、次回、詳しく紹介する。

同期モーターの電気損失は、巻き線で生じる銅損と磁性材料で生じる鉄損の2つがある。このうち、低速回転時には銅損の占める割合が、高速回転時には鉄損の占める割合が大きくなる。それぞれの軽減手段にはトレードオフの関係があり、同時に軽減させることが難しい。こうした問題を解決するため、動作領域に応じて磁束密度を変化させて、低速と高速のいずれの領域でも高効率を実現する可変磁束モーターの研究開発が進んでいる。磁束密度を変える方法には、コイルに流す電流を電力変換器で細かく制御するアクティブ方式と、モーターの構造を工夫して磁束密度を変化させるパッシブ方式がある。

[ 脚注 ]

*1
EV向けの同期モーターのローター: EV向けの同期モーターのローターには、Nd-Fe-B系磁石、いわゆるネオジム磁石のような強力な永久磁石が使われている。永久磁石には磁力を発生する限界の温度があり、EVのモーターの動作温度である150〜200℃では、磁力が弱まってしまう(減磁)。そのため、高温でも減磁しないように、Dy(ディスプロシウム)を添加する。
*2
誘導モーター: 誘導モーターは、ローターを銅と鉄だけで構成し、磁石を使わないモーターである。誘導電流と回転する磁界の相互作用でローターが回転する。構造がシンプルなため、低コストで信頼性にも優れるが、回転磁界に遅れて回る傾向があるため、速い反応が求められるような用途には向かない。主に、工場で使う工作機器や、家庭用の扇風機や洗濯機に使われている。
*3
交流整流子モーター: 交流整流子モーターは、ローターとステーター共に電磁石を使った構造のモーターである。ローターの電磁石に電力を供給する端子、整流子があるためこのように呼ばれる。構造は、DCモーターと同じであり、直流電流を流しても回転する。始動トルクが大きく、高速回転させやすいという特長があるが、整流子があるため、電気的・機械的ノイズが多い。家庭用電源のような単相交流によって高速回転させる必要がある掃除機や電動工具などに使われている。
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