No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

走行状況や操作に応じてPWM制御用のパルスを生成

PWM制御に用いるインバーター内のトランジスタの動作を制御するパルスは、アクセル操作などの情報とセンサーで検知したモーターの回転や負荷、さらにはモーターを駆動する電力の電流値などのデータを基に、制御用のマイクロコントローラーで最適な条件を導き出して、作っている(図5)。そして、ゲートドライバーIC*9を経由して、インバーター回路内のトランジスタを動作させる。

[図5] EVのモーター駆動システムの構成
作成:伊藤元昭
EVのモーター駆動システムの構成

EVでは、動力用のモーターに三相交流モーターを使っている。三相交流とは、周波数と電圧は同じだが、位相だけが120度ずつずれた3つの交流を一組にした、モーター駆動に適した交流電源である。単相交流用のモーターは、回転ムラが生じやすく出力があまり出ないだけでなく、回転始動時には回転方向を決める補助が必要になる。三相交流用モーターならばこうした問題がないため、EVに限らず、大出力のモーターでは三相交流で駆動するものが多い。当然、これに合わせて、インバーターも三相交流用の回路にする必要があり、1個のモーターを駆動するインバーターを6個のトランジスタで構成する。

インバーターの進化で、EVをさらに魅力的なものに

EV用インバーターには、モーター駆動をさらに高精度・高効率に動かすための進化が求められている。さらに、小型・軽量化も極めて重要だ。クルマ内部の部品の小型・軽量化は、エネルギー効率を向上させるだけではなく、機敏な車体の動きを実現する上で見逃せない要因になるからだ。さらに、居住性や利便性を向上させる車内空間の拡張にもつながる。

EV用インバーターは、一般家庭のエアコン用に比べて15倍以上の大きな電流を扱っている。このため発熱量が大きく、正常な動作を維持するためには大型の冷却装置が必要になる。インバーター自体の小型・軽量化だけではなく、こうした周辺部品の小型・軽量化も欠かせない。いかに発熱を抑え、いかに効率的に熱を逃がすかが重要になってくる。

新材料SiCが、インバーターの性能を底上げ

こうしたEVの課題に応える手段として、半導体デバイスの基板材料を、従来のSiからSiC(シリコンカーバイド)に替えたSiCパワー半導体を採用する動きが加速している。

SiCの絶縁破壊電界強度*10は、Siに比べて1ケタ高い。このため、同じ耐圧の素子を作るのならば、デバイスの厚さを約1/10にできる。薄くなれば、電流が流れる経路を短くできるし、電流を流す媒体となるキャリアを生み出す不純物の濃度を10倍に高められる。これらの効果を総合すると、素子がオン状態にあるときに電流が流れる経路の抵抗値を、理論的には1/1000に下げることが可能だ。つまり、電力損失をその分だけ低減できることになる。

損失が少ないということは、発熱も少ないということだ。しかも、SiCはSiでは動作不可能だった高温でも安定動作する。このため、冷却機構も簡略化できるのだ。さらに、IGBTよりも高速動作可能なMOSFETが利用できるため、PWM制御のスイッチング周波数も高められる。これによって、滑らかな駆動波形を作り、より高効率でスムースなモーターの回転が実現する。加えて、スイッチング周波数が高くなると、周辺の電子部品の小型化も進む。総じて言えば、インバーターのサイズや重量が劇的に小さくなり、機器や車両の小型・軽量化につながる。まさにいいことずくめだ。

SiCデバイスを採用することで、より高電圧の電力を、より高効率に変換できるようになる。この点に着目し、SiCデバイスの投入を見越して、駆動電圧を従来の400Vから800Vに引き上げて、電力を供給するケーブルでの損失を最小限に抑えようとする動きもでてきている。これによって、システムコストも削減できるという。

[ 脚注 ]

*9
ゲートドライバーIC:インバーター回路内のスイッチを制御する信号を整えるゲートドライバー回路、上下のスイッチング素子が同時にオンするのを防ぐ回路(デッドタイム生成回路)、マイクロコントローラーが出力したPWM制御用パルスのスイッチの基準電位に変換するレベルシフト回路、この3つを統合した半導体チップ。
*10
絶縁破壊電界強度:絶縁体に電圧を印加し、絶縁状態が破壊されて電流が流れ出す電界の大きさのこと。
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