No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載01

ヘルスケア/メディカルに半導体チップが生きる。

Series Report

新しい心拍計

発売当初、へルスケア用のウェアラブルデバイスとして登場したFitbitの活動量計は、加速度センサや圧力センサ、心拍数モニターなどを搭載し、一日に歩く歩数や負荷の高さなどを検出し、睡眠中の活動量のデータも取っていた。しかし、活動量を測定しても医学的な意味づけが不十分で、今のところ医療機器とは認められていない。

これが変わりつつあるのは、心拍数に応じて血流量を測定する方法として、LEDと受光ダイオード*3による反射光強度の時間変化が、心電図と対応していることがわかってきたことと関係している。ここ1〜2年くらいで、LEDを使った脈波PPG(光電脈)が注目されるようになってきた。

このPPGについては、連載1回でも簡単に触れた。まず、心臓は1分間に約60回血液を体中に送り出しているが、ヘルスケアデバイスは、その流れを光の反射率測定によって得る。血液が流れている動脈内のヘモグロビンは緑色の光を吸収しやすい性質があるため、緑色のLEDの反射光を受け、その強度の時間変化を見ることで、心拍数を算出している。反射光は受光ダイオードによって、光を電流に変換する。心臓から血液が強く押し出されるとき、その反射光はピークを示し、流れが緩まると反射光も下がってくる。この電子回路の電流の時間変化を見ると、心電図で得られたデータとほぼ同じような周期で変化していることがわかる(図2)。

[図2] 青い線は心電図の曲線、赤い線はPPGによる測定曲線
出典:Texas Instruments
青い線は心電図の曲線、赤い線はPPGによる測定曲線

実は、このような光学システムでは、光は皮膚の表面から入射され、血管内の赤血球によって吸収される光が反射光から測定できる。心拍が生じると、血液量の変化に伴って受光量が変動する。かなり多くの動脈血液が流れる指や耳たぶで測定を行う場合には、最も高い精度が得られる赤色光源あるいは赤外光源を使う。ただ、動脈は手首の上にはほとんど流れていないため、ウォッチ型機器では、緑色光を使い、皮膚表面のすぐ下にある静脈と毛細血管を監視して拍動の成分を検出しているという。

AFEは差別化技術

こういった新しい心拍計の場合、センサ信号を受けるアナログフロントエンド(AFE)ICが重要なカギを握る。ここである程度、アナログ信号を補正した後に、A-D変換を行い、デジタル信号をホストのマイコンなどのCPUに送り、そこで信号処理することが多い。LEDを含むAFEの光モジュール回路(図3)として、赤色LEDと緑色LEDの両方を含む回路をアナログ・デバイセズ社(ADI)が提案している。

[図3] 周囲光の影響を除去する回路を集積したAFE
出典:Analog Devices
周囲光の影響を除去する回路を集積したAFE

AFEでは、周囲光を除去する回路を集積している。この回路は、手首に装着するウォッチ型機器において欠かせないものだ。PPG方式で脈波を計測する場合は、時計盤の裏にLEDと受信ダイオードが配置される。ウォッチと手首との間に隙間が開くと周囲の光が入り込み、受信光にノイズとして現れるため、周囲環境の光を取り除く回路が必要となるのだ。また、運動時などはLEDの反射光がぶれるため、やはり誤差が大きくなる原因になる。さらに、体の動きの周波数成分が誤って心拍測定されてしまう恐れもある。このため、動いている場合には、その動きを補償する処理が必要になるのだ。もちろん、人体が時計とぴったりくっついていれば、動きの影響は小さくなる。

このAFE回路では周囲光を除去した後、再び増幅してアナログ信号をデジタルに変換する。図3は、分解能14ビット*3のADコンバータを用いて、デジタルに変換した後、デジタルインタフェース回路に入力したモデルだ。ここでは、マイコンなどの制御回路に信号を送るためにSPI(Serial Peripheral Interface)やI2C(Inter-Integrated Circuit)*4などの標準的なインタフェースに変換し、マイコンなどにつなげている。

この回路では酸素飽和量を測定するため、赤色ダイオードと赤外ダイオードを搭載することも、センサを装着する部位によっては赤色LEDと緑色LEDを搭載することも可能だ。それら二つのLEDによる測定データを時分割でデジタルデータとしてみるためのタイムスロットを割り当てる回路も搭載している。

[ 脚注 ]

*3
分解能14ビット:
ここでの分解能はアナログ波形の山から谷までを細かく切り刻んでいける能力を指す。14ビットの分解能は、山と谷の電圧を2の14乗分の一、すなわち1/8196で刻むことでデジタルで表現できる。
*4
SPIやI2C:
デジタル信号をチップの外とやり取りする場合に使う信号の規格パターンのこと。いずれもデジタル信号同士でIC同士をつなぐことができる。
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