No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

連載01

5Gの性能を左右する半導体とは何か?

Series Report

広がる応用

テクノロジーの進展とアプリケーションの進展が共に進ことで新しい応用が開けてくる。LINEやFacebook、Twitter、LinkedInなどのSNSは高速データ通信の3Gになってから始まり、4Gになって普及した。5Gの登場では、どのようなサービスが登場してくるだろうか。

今、最も大きく注目されている応用は、「ローカル5G」と呼ばれる5G通信で、工場やショッピングモールで使われるようになる。例えば、工場内には、さまざまな機械があり、PLC(Programmable Logic Controller)によってプログラム通りに動いているが、機械に監視ビデオ装置を取り付けて機械の異常を検出したり、機械同士が同期をとって通信しながら自動的に作業時間間隔を詰めて生産性を上げたりすることが可能になる。このような高速のデータレートが必要な用途で生かす。電波を工場内に限定すれば、セキュリティもある程度保たれる。同様に、ショッピングモール内の映像をリアルタイムでどこからでも見られるようにすれば、顧客数の把握、顧客の流れなどを店舗に生かすことができる。ただし、ローカル5Gでは通信キャリアは絡まない。工場などを持つ企業が工場内に電波の飛ぶ範囲を限定し、総務省の許可をもらう必要がある。

クルマと外部との通信も5G時代に本格化する。ここではいわゆるC-V2Xと呼ばれる5Gセルラーネットワーク方式を利用する(図5)。クルマ(V: Vehicle)と外部のビルや信号機などの電波を発する機械(X)との間での通信が可能になることにより、見通しの悪い交差点や横道のクルマの存在、またはクルマの陰に隠れた人や自転車の存在などをドライバーに伝えることが可能になる。C-V2Xでは、クルマと基地局との通信と、クルマとクルマとの直接通信の2種類の通信系統が必要になる。5Gの低遅延という特長を利用できれば、特にクルマと基地局間の通信に遅れがなくなり、例えば1㎞先の渋滞や事故、工事などの今の状況をリアルタイムで知ることができるようになる。

[図5]セルラーV2Xの実験で想定される、見えにくい状況での走行シナリオ
実験には日産自動車やNTTドコモ、Continental、沖電気工業、エリクソン、Qualcommの6社が参加
出典:沖電気工業株式会社のHP「日本初セルラーV2Xの6社共同実証実験に成功
セルラーV2Xの実験で想定される、見えにくい状況での走行シナリオ

5Gのように遅延時間が短ければ、クラウド上の高速コンピュータでグラフィックスを描き、リアルタイムでVR/ARで見せるような応用も可能になる。従来は、遅延時間も長くデータレートも遅いため、グラフィックス演算はパソコンや強力なハードウエアで行いVRゴーグルに送るという方法しか取れなかった。VRゴーグルだけでのグラフィックス演算は難しかったのだ。しかし、5G環境下ではクラウドでグラフィックス演算させ、結果だけを5Gで送れば良いためVRゴーグルだけで済ませることが可能で、VR普及の追い風となる。

本命ミリ波はビームフォーミングとセットで

これまでの5Gはサブ6GHzというLTEの延長のような低い周波数で商用化が進められてきた。しかし、最初に述べたようにデータレートは1Gbpsにも達していない。Gbpsを実現するためにはもっと周波数を上げて帯域を広くとる必要がある。やはり5Gの高速データレートを実現するためにはミリ波技術の商用化を実現しなければならない。

しかし、ミリ波を使って信号を送ると、その電波は指向性を持つようになると共に、到達距離は短くなるという性質がある。このため、ミリ波の到達距離が短く、しかも360度の範囲に飛ばせないため基地局だけではなく、スモールセルを多数設ける必要が出てくる。これを解決するためには、ビームフォーミングという技術を開発する必要があり、アンテナを多数並列に設ける必要も出てくる。その開発状況を第2回で、そしてビームフォーミングに必要な半導体チップの開発状況を第3回で解説する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

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