No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

Cross Talkクロストーク

未来に希望を持つ途上国で、刺激をもらう日本の若者

平本督太郎氏

── 学生など、日本の若い人たちはSDGsに関連した取り組みに積極的に関わる意思はあるのでしょうか?

平本 ── 最近の若い人たちは、価値観が大きく変わっています。そして、SDGsに関連した取り組みに向いた価値観を持つ若者が増えているように思えます。

最近の統計にも出ているのですが、日本の若者は未来に対して希望が持てない状況にあるというのです。生まれてから、右肩上がりの経済発展を経験せず、下がる一方の中で育ってきたからだと言います。本学に着任する前に東京の大学で学生に、「夢は何か」と聞いたことがあるのですが、答えは「いまの状態が維持されること」というものでした。アンケートなどの結果では、7~8割の若者が、「親の世代よりも豊かになれない」「幸せになれない」と考えているのが日本の現状なのです。

このため、給料が高いことよりも自己実現の方が重要で、自分らしく生きられるかを重視する人が増えています。その中で、世の中を変えていく、すなわち自分たちの漠然と感じる社会の不安を解消してくれる期待感を抱ける、企業や人に惹かれているところがあるようです。SDGsに関連したビジネスを行っている企業は、こうした現在の若者の意識に合った存在として映っているようです。

山﨑 ── うちに来ているメンバーは、先生がおっしゃる世の中を変えていきたいという思いを持つ人材が多く集まっているように思えます。実際に自分の眼で海外を見てきて、途上国の人たちの暮らしに触れて、こうした人たちのためになること、ためになるビジネスをしたいという人たちが多いのです。

これは、一方で、日本の若者が途上国の人たちから、日本では感じることができなかった刺激を受けた結果でもあるのではないでしょうか。私も、海外に出張する機会が多いのですが、いまは途上国なのだが、今後の発展を予感させる現地の様子に触れてワクワク感や高揚感を感じることが多くあります。そして、そのワクワクを糧に、海外でのビジネスを推し進めているような面があります。ただし、そうした途上国は、足元では人口爆発や資源の枯渇といった課題が山積しているわけです。今後成長していく国に、日本が保有する技術・価値観・仕組み作りなどの強みを持っていき、社会課題の解決と経済発展に貢献していくことは、日本にとってもよいことだと考えています。

── 途上国への貢献は、ODAなど金銭や物資の支援やテクノロジーの供与などを思い浮かべる人が多いように思います。SDGsの取り組みを支援ではなく、ビジネスにする意義はどこにあるのでしょうか。

山﨑 ── 途上国の人たちは、お金を与えてもらって生活を維持して欲しいとは考えていないと思います。いつまでも、先進国に頼る状況が続くのでは、社会課題に継続的に取り組んで解決することはできません。一緒に新しいビジネスを作り、継続的に共に発展していくことこそが大事だと考えているはずです。

平本 ── おっしゃる通りです。SDGsでは、活動への企業の参加をとても重視しています。これは、いま山崎さんがおっしゃった理由からです。例えば、SDGsの時代においても、貧困を解決したいと考えた時に、支援を受ける人たちの自立心や持続して取り組む力を、無思慮な援助が奪ってしまうことが実際に起き、問題視されてきました。これに対し、取り組みを現地の人が主体的に参加するビジネスであれば、自立する力が身につき、持続もしていきます。実際、いままで社会的な圧力で発言することすらできなかった途上国の女性たちが、自分たちでお金を稼げるようになった途端に自信をつけて、積極的、自発的に仕事に取り組み、地域を良くしようと行動し始めるようになった例が数多く存在します。

── 山﨑さんのように、途上国の人たちから刺激をもらってビジネスを推し進める活力に転化できている人は、まだまだ少ないように思えます。

山﨑 ── 若者に限らず、日本の人たちは、海外で抱えている社会課題の現状をよく知りません。欧米の国々の事情を知っている人はいたとしても、途上国については暮らしぶりすら知らないのです。こうした海外の事情について知る機会があれば、SDGsに関連したビジネスには大きなチャンスがあるので、取り組みが広がってくると思います。

平本 ── とても重要な視点です。SDGsに関連したビジネスを創出するのなら、まずは解決すべき課題を抱える現場に、仲のよい友人を作ることから始めるとよいと思います。その人の人生が上手くいくように、応援できるビジネスを考えると、机上の空論にならない価値あるアイデアが出てくると思います。

SDGsを他人事と考えていたら、日本は二度と世界で存在感を示せない

山﨑敦義氏

── SDGs関連のビジネスを継続的に進めていくことで、最終的にはどのような世界の実現を目指したいのでしょうか?

山﨑 ── SDGsは2030年での実現を目標としています。ですが、そこまでの取り組みや出来上がった成果を、一過性のもので終わらせるのではなく、世界規模で定着した世界の実現を目指すことが大切なのだと思います。

平本 ── 私が究極的に目指したいのは、先ほど山﨑さんが言っていたような、ワクワクする社会です。途上国の人の話でワクワクするという話でしたが、SDGsは誰一人として取り残さない社会の実現を目指しているので、日本も含む世界中の人が将来に希望を感じてワクワクできる社会であってほしいと思います。

でもこれは、とてもチャレンジングな話です。現状の日本の状況を鑑みると、多くの人にとってSDGsは他人事のように感じているのではないでしょうか。どこか、海外から日本に入ってきた考え方ということで、横並びで取り組んでいるといった意識が見えます。SDGsは2030年で終わりますが、それを引き継いで2045年までの目標が新たに作られることになることでしょう。2045年は国連100周年のタイミングなので、実はいまからいろいろな動きが始まり、SDGs以上に世界中から様々なリソースが集まってくると予想されています。そこに1人でも多くの日本人が参加して、SDGsの達成のために取り組んできた自分の実体験に基づいて意見を言ってもらいたいのです。そうすることによって、自分の望みがしっかりと盛り込まれた、すごくワクワクする社会をみんなで目指していくことができるのではないでしょうか。

山﨑 ── そうですね。例えば、マイクロプラスチック*4の課題は、海外から提起された他人事であると思っている人が多いことでしょう。実は、日本はプラスチックの排出量は世界で2位ですが、回収率が圧倒的に高く、流出量が少ないのです。これが何を意味しているかと言えば、日本には、マイクロプラスチックの問題を解決する策があるということです。しかし、この問題を他人事のように考えていると、世界に貢献できないばかりか、海洋資源を多く利用している日本は大きな損害を被ることになります。ここは、日本の技術、価値観、仕組みを世界に発信して貢献すべきところです。

平本 ── いま、日本でも積極的にSDGsに関わる方向へと機運が高まりつつあります。2025年には万博が日本で開催されますが、ちょうどそのくらいからSDGsの次の目標に関する検討が本格的に始まると予測されます。日本はそのタイミングを逃したら二度と存在感を示せなくなるという覚悟で臨む必要があるでしょう。

[ 脚注 ]

*4
マイクロプラスチック: 自然環境中に存在する5mmよりも微小なプラスチック粒子。投棄されたプラスチック・ゴミが不完全に分解されることで生まれる。海洋生物が海水に混ざったマイクロプラスチックを誤嚥することで消化不全や胃潰瘍などを起こし、死に至るという大きな環境問題になっている。

Profile

山﨑敦義氏

山﨑敦義(やまさき のぶよし)

TBM 代表取締役 CEO

1973年、大阪府岸和田市生まれ。中学校卒業後に、大工見習いを経て、20歳で中古車販売業を起業。

30歳で訪れた欧州で、「グローバル」「100年後の継承」「人類の幸せ」をテーマに1兆円事業を興したいと奮起し、2011年に株式会社TBMを設立。石灰石を主原料として、紙やプラスチックの代替となる新素材「LIMEX」の普及、LIMEXによる資源循環モデルの構築を推進し、持続可能な循環型社会の実現に向けて、グローバルでのサステナビリティ革命に挑戦している。

Plug and Play 2016「世の中に最も社会的影響を与える企業-ソーシャルインパクト アワード」受賞。EY Entrepreneur Of The Year 2019Japan、Exceptional Growth部門「大賞」を受賞。
2019年、企業価値評価額「1218億円」、ユニコーン企業になる。

平本督太郎氏

平本督太郎(ひらもと とくたろう)

金沢工業大学 SDGs推進センター長

慶応義塾大学大学院卒業後、2015年度末まで野村総合研究所にて経営コンサルタントとして、日本政府の政策立案支援、民間企業の事業創造支援に従事。在任中に社長賞である未来創発ナビゲーション賞を受賞。

2016年に金沢工業大学に着任し、金沢工業大学における第1回ジャパンSDGsアワード SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞受賞に、現場統括として大きく貢献するとともに、会宝産業の顧問として同企業における第2回ジャパンSDGsアワード SDGs推進副本部長(外務大臣)賞受賞に貢献した。

現在、白山市SDGs推進本部アドバイザリーボード座長、SDGsに関する万国津梁会議委員(沖縄県)を務めるとともに、経済産業省のSDGsビジネス関連の補助金制度の選定委員、ジェトロSDGs研究会委員を歴任。

主な編著に『アフリカ進出戦略ハンドブック』(東洋経済新報社/共著)2015年、『BoPビジネス戦略』(東洋経済新報社/共著)2010年などがある。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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