Expert Interviewエキスパートインタビュー
── このシステムで荷物を運ぶとき、輸送費用はどのくらいになるでしょうか。
現時点の輸送コストの試算は、航空機で1回5000円(10kg・50km)、船舶は1回1000円(100kg・10km)、陸上カートは1回500円(30kg・10km)くらいです。それぞれのドローンに使用するバッテリーやモーターなどの電装部品がまだ高いので、これくらいの費用になってしまいます。しかし、世界的に大型ドローンの存在が浸透してきたことで、部品の価格は下がっています。量産化などにより、部品の価格がさらに下がっていけば、5年後には航空機で1回1000円、船舶は1回500円、陸上カートは1回100円くらいの価格で輸送できるのではないかと期待しています。
これが実現できれば、離島や山間部での生活は確実に変わります。このシステムではコンビニエンスストアで販売しているものは、ほぼすべて運ぶことができます。24時間いつでも注文と受け取りが可能になるなら、離島にコンビニエンスストアができるのと同じくらい画期的なことです。これまで都市部に行かなければ買えなかったものや医薬品なども気軽に配送してもらえるようになれば、過疎地域に住んでいる人たちの生活の質は大きく向上するでしょう。
住みたい場所に好きなだけ住める社会へ
── このシステムが実用化されると、社会はどのように変化していくのでしょうか。
男木島の高齢者のように、これまで離島や山間部では生活必需品や医薬品などが手に入りにくくて、慣れ親しんだ場所から都市部に移る人たちがたくさんいました。このしくみがしっかりと根づいていけば、それらの物品を手軽に手にすることができるので、少なくとも、住んでいる場所による不平等はなくなります。
離島や山間部には、都心ほどの便利さは必要ないと思っています。しかし、生活必需品や医薬品などがより手に入りやすくなれば、無理に都市部に住む必要もなくなるでしょう。自然環境はとてもいいですし、人が少ないのでのびのびと生活できます。新型コロナウィルスの流行によって、離島や山間部の暮らしも見直されている今だからこそ、この技術によって、住みたい場所に住み続けられるようになればいいなと思います。
── ドローンによる無人配送システムは、今後、どのように展開していくのでしょうか。
2019年から、長崎県の五島市がドローンを活用した新産業・雇用創出を目指したドローンi-Landプロジェクトを開始しました。その一環として、ドローンを使用した離島間無人物流事業に参加し、現場のサポートをしています。また、航空大手のANAホールディングスの福岡県の玄界島エリアでの気象データ提供のサポートもおこなっていましたが、ANAも2020年から五島市のドローンi-Landプロジェクトに合流しました。
その他にも、概念実証実験などの受託業務もおこなっていて、2020年度は3〜5か所で実験をおこなう予定です。この中には、遠隔での服薬指導と組み合わせた医薬品輸送のプロジェクトが含まれています。これらの実験を通して、どこに住んでも暮らしやすい社会に向けたしくみが整えられていくと思います。
3年後には商用サービスを開始し、たくさんの人たちが使えるようにしていきたいです。おそらく5年後には人を乗せて自動運転するモビリティドローンも登場しているのではないでしょうか。10年後には、私もモビリティドローンに乗って空を飛んでいると思います。今、かもめやのオフィスは高松市の市街地に構えていますが、モビリティドローンが実現すれば、島にオフィスを構えて仕事をすることができます。モビリティドローンを使っていくつもの拠点を自由に行き来できるようになれば、都市と過疎地の垣根はより低くなり、たくさんの人たちが暮らしやすい社会になると思います。
Profile
小野正人(おの まさと)
株式会社かもめや代表取締役
離島・僻地マニア。インターネットプロバイダや移動体通信事業者で、インターネット黎明期よりインフラエンジニアとして日本の情報通信網の普及に貢献。ライフワークである離島・僻地めぐりを続けるうち、交通・物流事情の悪さを目の当たりにし、ドローンによる物資輸送を着想する。
Writer
荒舩 良孝(あらふね よしたか)
科学ライター
東京理科大学在学中より科学ライター活動を始める。宇宙論から日常生活で経験する科学現象まで幅広い分野をカバーし、取材・執筆活動を行ってきた。日々、新発見が続いている科学のおもしろさを、たくさんの人に伝えていきたいと思っている。主な著書は『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『思わず人に話したくなる地球まるごとふしぎ雑学』(永岡書店)など。