連載01
実用化が間近に迫る究極のバッテリー、全固体電池
Series Report
バッテリーが安全性とデザイン性のさらなる向上を妨げている
スマートフォンの普及のペースに比べて、なぜウェアラブル機器の普及は遅いのだろうか。さまざまな要因が指摘されているが、原因の一つとして、現時点のウェアラブル機器では、多くの人が期待する価値を提供できていないことが挙がる。
スマートウォッチやスマートグラスなど、ウェアラブル機器はユーザーが常に身に着けて利用する機器である。パソコンやスマートフォンとの最大の違いは、利用に際しての安全性が何より重要な機器であり、加えて個人の趣向に合ったデザイン性がこれまでの電子機器にも増して大切になる点だ(図2)。いくら、電子的機能が高性能だったり、多機能だったりしても、発火や爆発が起きる可能性がある機器や見栄えのしない機器では、誰も日常的に身に着けようとは思わない。
ウェアラブル機器は、タフで美しい小型コンピュータである必要があるのだ。しかし、ウェアラブル機器をタフで美しいものにするための道を、なかなか進化しないバッテリーが阻んでいる。
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リチウムイオン二次電池の最大の泣きどころ
多くの消費者は、ノートパソコンやスマートフォンを動かすバッテリーとして利用しているリチウムイオン二次電池ならば、ウェアラブル機器向けバッテリーとして最適なのでは、と漠然と考えている。しかし、実はそうでもない。タフで美しいウェアラブル機器を作る際のバッテリーとして、現在のリチウムイオン二次電池には解決すべき大きな課題があるのだ。
確かに、小さなスペースに大きな電力を蓄積し、高出力での充放電が可能なことに関しては、現在のリチウムイオン二次電池は他に代わるものがない高性能を備えている。ただし、安全性に不安を残している。国土交通省交通局や航空会社のホームページでは、航空機内への持ち込みや預け入れが禁止あるいは規制される「危険物」の例として、火薬、ライター、ナイフなどと並んでリチウムイオン二次電池を挙げている(図3)。ちなみに、乾電池、ニッケル-カドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池など他のバッテリーは、ハッキリと「非危険物」に分類されている。
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リチウムイオン二次電池の安全性が疑問視されている最大の原因は、電池を構成する材料に可燃物や毒物が含まれているからだ。
まず、充放電時に電極間で電荷をやり取りする際の媒体となる電解質*1には可燃性の液体が含まれている。最悪の場合、外部から衝撃を受けると電池内部で電極同士が接触し、ショートを起こして爆発する可能性がある。さらに、封止している容器が破損すれば、有毒な液体が流れ出す。このため、衝撃が加わるような環境下での使用や、人が身につけて利用する機器での使用が困難だったのだ。
高温環境下で使用すると、さらに危険性が増す。一般に、リチウムイオン二次電池内部で電極を隔てる部材であるセパレータ*2には、オレフィン系材料が使用されることが多い。しかし、この材料は、100℃以上の高温下では溶けてしまい、ショートを起こす原因になる。さらに、電解液の蒸発温度に達して内圧が上昇すれば、電池としての機能が失われてしまう。
[ 脚注 ]
- *1
- 電解質: 電力を充放電できるバッテリーである二次電池の内部で、正極と負極の間で電荷をやり取りする媒体(リチウムイオン電池の場合にはリチウムイオン)が移動するための通り道となる物質を電解質と呼ぶ
- *2
- セパレータ: 電極同士が接触しないようにする部材