No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載01

実用化が間近に迫る究極のバッテリー、全固体電池

Series Report

バッテリーのさらなる大容量化・高出力化への期待は大きい

とはいえ、バッテリーは電子機器や電動機械の電源として電力を供給する部品である。その価値を決める指標の中心は、容量や出力であることは全固体電池も変わりない。

小型でありながら高容量のバッテリーを作るためにはエネルギー密度*1を、大出力にするためにはパワー密度*2を高める必要がある。既存のリチウムイオン二次電池の重量エネルギー密度は実験室レベルで最大約270Wh/kg、体積エネルギー密度は最大約700Wh/Lだ。そして、現行のリチウムイオン二次電池の構造の延長線のままでは、同280Wh/kgと同800Wh/Lがほぼ限界であり、エネルギー密度の飛躍的な向上は望み薄だ。

それでも、既存のリチウムイオン二次電池よりも高性能なバッテリーに対するニーズは根強い。たとえば、EVでは航続距離の短さと充電時間の長さに問題を抱えている。実用に足る仕様にするためには重たい電池を搭載せざるを得ない状況だ。急速充電でも、バッテリー容量の80%を充電するのに約30分かかる。また、スマートウォッチなどのウェアラブル機器は、毎日のように充電する必要がある。充電を怠って、健康状態や活動量などを記録している途中で電池切れしたら、本来の機能を果たせなくなる。さらに、毎日の充電が必要なウェアラブル機器でも、筐体内部の大きなスペースをバッテリーが占拠しているような状況であり、機器開発者は、バッテリーをもっと小型化してデザイン性や使い勝手を高めたいと考えている。

様々な場所から多様なデータを収集するIoTデバイスでもバッテリーの性能向上が望まれている。IoTデバイスは、人が踏み込めないような場所に置いてこそ、価値あるデータを収集できる。現在、工場やプラントなどで使われているIoTデバイスは、収集したデータを伝送するための無線通信としてBluetoothやWi-Fiなど、近距離無線通信技術を使うことが多い。しかし、より価値の高いデータを収集するためには、人がめったに足を運ばない遠距離の場所にIoTデバイスを置きたい。それを実現するためには、携帯電話用のセルラー通信を利用できる比較的大きな出力のバッテリーを使う必要がある。さらに、バッテリーの大きさが置き場所を限定しないような小型化も求められる。理想的には、メンテナンスフリーであり、できればエネルギーハーベスティング(環境発電)*3や空間伝送型ワイヤレス給電*4と組み合わせた充電レスな機器を実現したいところだ。

電解質の固体化はさらなる高性能化への第一歩

全固体電池の安全性や信頼性が高いという特長は、応用機器や利用シーンを広げる効果がある。しかし、性能が現状のバッテリーよりも劣るのでは、その効果も台無し。では、全固体電池は、既存のリチウムイオン二次電池を超える高性能を実現し、バッテリーの高性能化に対するニーズに応えることはできないのだろうか。実は、全固体電池に別の技術を組み合わせて利用することによって、これまで実現不可能だったレベルの超高性能なバッテリーが生まれる可能性が出てくるのだ。そのため全固体電池であることは、将来の超高性能バッテリーを生み出すための条件の1つとなっている(図2)。

[図2]全固体電池の実現は、将来の超高性能バッテリー実現の第一関門
作成:伊藤元昭
全固体電池の実現は、将来の超高性能バッテリー実現の第一関門

では、エネルギー密度やパワー密度を高めるためには、二次電池のどの部分を改良すればよいのだろうか。ざっくり言えば、リチウムイオン二次電池の容量を決めるエネルギー密度は、正極と負極それぞれに蓄積可能なリチウムイオンの量で決まる。そして、出力や充放電の速さに関連するパワー密度は、電解質中のリチウムイオンの移動速度と電極での電子とリチウムイオンの電導度などで決まる。つまり、電極材料の選択こそが高性能化の鍵を握っており、そこでは新電極材料の投入が必須になってくる。

ところが、従来の液体電解質では、バッテリーを高性能化できる可能性がある電極材料を自由に使うことができなかった。液体電解質に電極材料が溶け出してしまい、耐久性に問題を抱える可能性があったからだ。これに対し全固体電池では、電解質が固体であるため電極材料が溶け出すような現象が起きにくい。さらに、液体電解質よりも電気化学的な安定性が高い材料が多いため、バッテリーの高性能化に向く電極材料を比較的自由に利用できる。

加えて、全固体電池ならではの内部構造の革新を起こすことができる可能性がある。まず、電極と固体電解質それぞれを薄くし、何層にも重ねることが可能である。バッテリー内部で複数個分の電池構造を並列につないだり、直列につないだりすることで、大きさを変えることなく高容量化と大出力化を実現できる。さらに、電解質の固体化で、液漏れが起こらず、安全性が高まることで、パッケージや安全確保のための仕掛けや構造を簡素化できる。このため、バッテリーの筐体を小型化することが可能だ。

[ 脚注 ]

*1
エネルギー密度: より小さな電池でより大きな電力を蓄えることを示す指標。単位はWh/kgまたはWh/lである。バッテリーの持久力を示す指標であり、スマホに応用する際には電池の持ちの長さを決める。
*2
パワー密度: 充放電時の入出力電力の大きさを示す指標。単位はW/kgまたはW/lである。バッテリーの瞬発力を示す指標であり、スマホに応用する際には、充電時間の短さや動かすことができるアプリの負荷の大きさを決める。
*3
エネルギーハーベスティング: 電子機器を使う周辺環境に内在する、光、温度、振動、電波などのエネルギーを電力に変え、電子機器を駆動する電源として利用する技術。
*3
空間伝送型ワイヤレス給電: Wi-Fiを通じてアクセスポイントと端末の間でデータ通信をするのと同様に、無線電力トランスミッターから端末へと電波を通じて電力を伝送し、端末で利用する技術。現在、多くの企業が技術開発を進めている。
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