No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載02

5Gの虚像と真実

Series Report

多端末はIoTそのもの

5Gの特長となっている多端末とは、電話以外のモノも通話機能を持ってモノからモノへとつながっていく、という意味だ。まさにIoT(インターネットにつながるモノ)になる。IoTというコンセプトがブームになる前から、WSN(ワイヤレスセンサーネットワーク)やM2M(マシンツーマシン)などのIoTシステムはあった。多端末こそ、これまでの携帯電話の規格であった1Gから4Gまでの携帯通信の時代とは一線を画す特長である。WSNやM2Mでは電話のように機械(モノ)同士が会話する。もちろん、人間のような言葉を話すわけではないが、通信することで互いの状況を知ることができた。

M2Mは、例えば自動販売機の中に無線機とセンサーを入れておき、センサーが、飲み物の本数が少なくなったことを検知すると、無線機から電波を飛ばして販売本部へ連絡する、という応用がある。どの飲み物の減りが顕著なのか、をいち早く知ることができるため、工場ともつなげば、常に品物を切らすことのない自販機ができる。定期的に自販機の飲み物を補充する必要もない。飲み物がなくなりそうな時に補充すればよい。このため、道路を走るトラックの数が減り、CO2が削減されると見られている。すでにM2Mの通信モジュール*1を搭載した自販機は日本でも登場している。

IoT時代にはそのような通信モジュールが増えてくる。シスコシステムズ社は、2022年にはIoTデバイスが146億個に増加すると予想している。また、2020年6月に発行された最新のエリクソン・モビリティ・レポートによると、2025年には全IoTデバイスは246億個に増加すると予測している(図2)。この予想は、5年ほど前は2025年に500億個という数量を見積もっていたが、現実的な数字に変わってきたといえそうだ。

[図2]IoTに関する予測の最新データ
出典:Ericsson Mobility Report
IoTに関する予測の最新データ

IoTデバイスがインターネットとつながると、さまざまなデータを送るが、データレートが速い応用と遅い応用がある。速さを要求される応用では、VR/AR(仮想現実/拡張現実)などのグラィックス処理と映像処理を必要とするものや、4K/8Kのクリアな映像を送信するようなシーンなどがある。これは当然データレートが速くなければならないため、5Gの応用の一つになりうる。

一方、IoTの遅い応用では、工場での機械の温度や、ポンプやモータの振動の異常を検出して、故障する前に修理することでダウンタイムを減らすという利用シーンがある。この場合、消費電力を減らすため温度は数秒ごとに測定することになる。また振動を連続的に測定する場合でも、動画伝送と比べると1秒当たりのデータ量は、かなり少ない。

LPWA(低消費電力の広域)と呼ばれるIoT専用ネットワークは、データレートがkbpsという単位で表されるほど遅い応用のためにある。その分、消費電力をずっと抑えることができる。また、4Gまでのセルラーネットワークだと基地局のカバー範囲は半径2kmしかないため、基地局を多数設ける必要があった。このため資金力が豊富な通信オペレータしか参加できなかった。しかし、IoTの基地局LPWAは十数kmまで届けることができる。途中で通信が途切れる場合は、例えば1024回送りなおすことができるという仕組みを持つため、確実に届けることができる。東京都内なら山手線の中心に1基置けば済むことになり、少ない投資で通信ネットワークを構成できる。このためフランスのシグフォックスのようなベンチャー企業が現れた。

遅い応用を5Gセルラーネットワークにすると、広い帯域を遅いデバイスが占拠して無駄になるのではないか、と考えがちだ。しかし、通信オペレータは無駄のない使い方を提案している。高速データ通信のサブキャリア周波数帯域が20MHzだとすると、理論上は通信回線10kHzのIoTデバイス最大2000個分のデータを収容できる。通常は20MHzの帯域内に1台ないし、多重化しても数台しか収容できない。すでにLTEネットワーク時代からこういった一つの帯域内に数100台ものIoTデバイスに相当するデータを乗せるという実証実験は始まっている。

[ 脚注 ]

*1
M2Mの通信モジュール:携帯電話の通信と全く同様にデータ通信ができるRF(高周波)とベースバンドを備えた通信回路の基板のこと
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