No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載02

5Gの虚像と真実

Series Report

V2Xコネクテッドカーも5Gで通信

5Gは実はクルマの応用とも密接に関係する。自動車メーカーの最大の関心は自動運転ではない。事故を起こさないクルマ作りである。コネクテッドカーはeCallサービスから始まった。これは仮に事故を起こしてドライバーの意識がなくなったとしても、クルマからコントロールセンターへ事故を報告してくれて、間もなく救急車が駆け付けるサービスである。クルマ内に通信モジュールとセンサーを取り付けるだけで、事故の衝撃をセンサーが感知するとすぐに本部へ自動的に通信する。このサービスは欧州から始まった。

eCallサービスの次は、V2X(Vehicle to everything)でクルマとクルマ、あるいはクルマと信号機などが通信するサービスも開発が進んでいる。この通信規格に5Gを利用することがロードマップに含まれている。自動車メーカーやティア1、ティア2サプライヤ、通信メーカー、計測器メーカーなどが参加する団体5GAA(5G Automotive Alliance)が3GPPと共に規格作りを進めている。

例えば信号機のない交差点で、横からクルマが突然飛び出してくると衝突する可能性がある。また、道路を走行中、前を行くクルマの前方に何か障害物があっても後続車には見えない。もしそのクルマが突然車線を変更すると、自分のクルマが障害物にぶつかりそうになる。こういった事故になりがちなシーンを想定し、そのソリューションをクルマ内ECUのファームウエアに搭載しておく。

リリース16から本格的なV2Xの規格に

こういった危険な状況を避けるために、交差点に横から進入してくるクルマがどのくらいの速度で走行しているのか、そのクルマの位置、そしてクルマ同士の時刻などを知らなければならない。5G通信の規格リリース15には携帯通信の規格だけではなく、最低限のクルマ同士の通信規定もある。ただし、まだ十分ではない。横からの合流や、離れた場所での通信の場合には基地局を介して通信する。クルマ同士の直接通信も規定しており、その場合は衛星からの時刻信号を時刻の基準とする。

現在、5Gの規格は、リリース15の仕様に基づいて商用化が始まったが、さらに進化したリリース16や17といった仕様も発表されている。リリース16は2020年に決まり、リリース17は現在ディスカッションを進めている段階で、2021年に決まる予定だ。

第2世代の5Gシステム向けのリリース16には、V2Xの規定として隊列走行や、センサーの拡張、自動運転、リモート運転なども規定される。隊列走行は先頭のトラックの後ろに数台のトラックを自動走行させるような応用である。後ろのトラックは完全自動運転車であり、運輸業界における運転手不足を解決すると言われている。さらには工業用IoTやURLLC(超高信頼・低遅延通信)の拡張規格、クルマ同士やさまざまな通信機器間での干渉緩和、MIMO(多受信・多送信のアンテナ)などさまざまな規格を盛り込んでいる。V2X向けの衛星へのアクセスも規定されている。

5G通信は、これから先も、一足飛びに6Gへ行く訳ではない。2030年に向け、少しずつ進化を遂げていくことになる。リリース15から5Gが始まったが、今年のリリース16、さらに来年のリリース17と、これからの5Gに向けた規格が順次出来てくる。30年頃にはようやく2時間の映画を3秒でダウンロードできる、という表現ができるようになるだろう。連載の第3回は、もう一つの応用であり日本での期待が大きいローカル5Gと、O-RAN、セキュリティ、さらにミリ波からテラヘルツ波への動きを紹介する。これらは5Gの進化から6Gへ移行する時に生きてくる可能性がある。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

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