No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載02

5Gの虚像と真実

Series Report

富士通もローカル5Gの免許取得

富士通は、2020年2月18日に国内で初めて関東綜合通信局からローカル5Gの無線局予備免許を付与された。これを受けて、電波法に基づく基地局と陸上移動局(通信端末)の登録点検や接続確認、カバーエリアの確認など、商用免許取得に向けて検証を進めてきた結果、3月に入り国内初の商用免許を取得した。これによって、富士通は自社工場内や顧客、パートナー企業と一緒にローカル5Gの実証実験ができるようになった。

ローカル5Gの厄介な所は、総務省から通信免許を取得しなければ運用できないことだ。このため、JALは元々5Gの免許を割り当てられた通信オペレータのKDDIと共同でローカル5Gの実証実験に取り組んでいる。今年、富士通がローカル5Gの免許を取得したことで、ローカル5Gの実証実験をやってみたい企業は、通信オペレータだけではなく富士通もパートナーの選択肢に加えることになった。

3月27日に富士通は、新川崎テクノロジースクエアの敷地内でローカル5Gの運用実験を始めた(図3)。ここでは、LTEと共に使うノンスタンドアローン方式の5Gとなる。2.5GHz帯で帯域20MHzのLTEで接続制御を行い、接続した後のデータ伝送には28GHz帯で帯域100MHzを使う。

[図3]富士通が運用に入るローカル5G
出典:富士通プレスリリース
富士通が運用に入るローカル5G

富士通の運用実験では、新川崎の敷地内にカメラを多数配置して収集した高解像度映像のデータ伝送を行い、AIも使って人々がさまざまな動作解析を行った結果と照らし合わせ、不審者の行動を早期に検知するセキュリティシステムを実現し、建物内の防犯に生かす。ここでは5Gの伝送だけではなく、AIも使ってデータ解析することから広い応用が見込める。

4月になると富士通は、宮崎県延岡市のケーブルテレビ放送業者・ケーブルメディアワイワイのスマート工場実現と、地域課題解決の実証実験に活用するローカル5Gの検証システムの構築を、富士通ネットワークソリューションズと共に開始(図4)。2020年10月までに、富士通グループがこれまで培ってきた無線システム構築の知見を活かし、システムをワンストップで提供するとしている。

[図4]富士通グループとケーブルメディアワイワイとの共同での実証実験
出典:富士通プレスリリース
富士通グループとケーブルメディアワイワイとの共同での実証実験

ケーブルメディアワイワイは地方の放送局であるため、地域の顧客の工場や農業のデータを素早く吸い上げる5Gで、スマート工場や地域の課題解決に生かしていく。このために、5Gのコア基地局をケーブルメディアに置き、実証実験を行うユーザーの実験工場などにエッジ基地局を置き、スマート工場やスマート農業に生かすというもの。

工場内通信ネットワークを5Gで実験

ローカル5Gを工場に置くメリットは何か。オムロンはローカル5Gの実証実験は未だ行っていないが、2020年1月に東京品川に開発試作工場を開設した(参考資料1)。顧客の多い東京で、さらに羽田空港まで30分以内と海外とのアクセスに優れており、すぐ実証実験をやりたい顧客には打ってつけの場所である。

この試作工場を開設したオムロンの狙いは、無線による工場レイアウトの自由度の高まりである。従来、工場内では、一つの工程とその先の工程とのモーターの同期をとるために、リアルタイム性を重視して各社独自仕様の有線ネットワークで通信を行っていた。そのためEthernetベースのEtherCATやProfinet、古くからのFieldbusなど、さまざまな有線規格があった。これらの有線通信は、Wi-Fiのような無線通信と違い、途切れることはほぼない。より確実な通信ができる。このため、多くの工場では有線が使われてきた。

しかし、これからの工場は、従来のような大量生産とは異なり、少量多品種にも対応しなければならない。みんなが同じものを欲しがる時代ではなくなったからだ。一人一人が自分の好みに合ったものを欲しがる時代では、顧客ごとに製品を作らなければならない。少量生産に合ったセル方式の生産へ、製造装置や工程をフレキシブルに変える必要に迫られるようになると、有線の通信設備では装置や工程を動かすごとに工事をし直すことになる。無線であれば、そのような工事は要らない(図5)。

[図5]オムロンの試作工場のイメージ
オムロンはNTTドコモ、ノキアと共同で5Gの実証実験を行う。上の図は従来の流れ作業のレイアウトを示し、下図はフレキシブルにセル方式を表している。5Gだと上図から下図への転換は容易になる
出典:オムロン
オムロンの試作工場のイメージ
オムロンの試作工場のイメージ

オムロンは、NTTドコモ、ノキアソリューションズ&ネットワークスと共同で、工場などの製造現場で5Gを使った実験を行うことを昨年の9月に発表していた。この当時はまだローカル5Gの周波数免許の申請受付を行っていなかったため、ローカル5Gという言葉を使わなかったが、ローカル5Gで工場の装置や設備のレイアウトフリー化を実証実験の目標としている。

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