No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載02

5Gの虚像と真実

Series Report

海外ではLTEの延長としてローカル5G

これらローカル5Gの実証実験は、日本では初めてだが、海外ではLTE時代からLTEネットワークが工場や港湾、倉庫などで使われ始めている。しかもLTE方式から5Gへの以降もスムーズに行われている。アメリカの石油精製会社Phillips 66の工場には(図6)、AT&Tとアクセンチュアの協力により、エッジコンピューティングでデータを解析する5Gネットワークが構築された(参考資料2)。5Gの低いレイテンシ(遅延)を利用して、石油精製の自動化を進めるという。

[図6]Phillips 66が石油精製工場の自動化を進めるためにAT&Tとアクセンチュアの協力を受けて5Gを導入
Phillips 66が石油精製工場の自動化を進めるためにAT&Tとアクセンチュアの協力を受けて5Gを導入

デンマークのポンプメーカーGrundfos社にも、同国の通信オペレータTDC NETと、エリクソン社が協力して、ローカル5Gを導入している(図7)。従来の有線通信をローカル5Gに変えて、工場内でIndustry 4.0を目指す(参考資料3)。ポンプと水ビジネスのソリューションを自動化して生産性を上げ、拡張性を増やし、効率アップを狙う。自動化の中には、5Gで移動するAGV(Automated Guided Vehicle:自動走行車)も含んでいる。

[図7]水質関係やポンプを扱うGrundfosがロボットによる自動化を図るためローカル5Gを利用
出典:Grundfos
Phillips 66が石油精製工場の自動化を進めるためにAT&Tとアクセンチュアの協力を受けて5Gを導入

ローカル5Gは結局、ユーザー企業が通信機器メーカーおよび通信オペレータと一緒に自社工場のスマート化を図っているが、通信機器メーカーや通信オペレータはユーザーごとに個別に対応してきた。英国の通信オペレータBTは、ローカル5Gを工場に設置する場合に使うテストシステムを構築した(参考資料4)。5Gネットワークを通して工場の各製造装置やロボット、IoTなどからデータをエッジコンピュータに送り、AIや機械学習を使ってデータを解析し、各製造装置が最適に稼働するように制御する。つまりスマート工場あるいはIndustry 4.0で工場の自動化(自律化)を図って賢く制御するシステムに5Gが欠かせないのだ。

基地局の仮想化とO-RAN仕様

5Gシステムの本命技術となるミリ波は周波数28GHz以上(厳密には30GHz以上だが、認められた周波数28GHzもミリ波に含める)であり、39GHzも次の認可を待っている。ミリ波技術についてはテレスコープマガジンNo21.の連載「5Gの性能を左右する半導体とは何か」(参考資料5)で紹介しているので、ここでは省略するが、データレートを上げるためにはミリ波は欠かせない。

もう一つ重要なことは、5Gではミリ波のような超高周波の電波は一般に指向性が増し直線性が強まるが、到達距離は短くなるため、小さな基地局が多数設置されることになる。しかも、スマートフォンやIoTデバイスから基地局(エッジ基地局)までの間でデータを解析する必要に迫られる。そうなると基地局の標準化が必要になる。

この連載第2回で紹介したように、基地局はエッジ基地局、コア基地局、そしてコアネットワークへとつながっている。エッジ基地局は、端末と直接通信するが、コア基地局は、できるだけ標準化してコストを下げようという動きがある。そのために必要な技術として、基地局の仮想化と、O-RAN(Open Radio Access Network)仕様がある。基地局を仮想化するのは、従来のように携帯電話やスマホしかないようなネットワークとは違い、IoTの遅いデータレートと、4Kビデオを遅延少なく伝送する高速データレートが共存し、遅延の少ない応用ではトラフィック処理が十分できなくなる恐れがあったからだ。これまでの基地局では、専用のハードウエア機器と専用のソフトウエアで構成され、データレートや周波数などを応用ごとに割り振っていた。

しかし、低遅延で送る必要のある4Kビデオデータと、遅くても問題のないIoTの温度や湿度のデータが共存する場合、ネットワークを構成するリソースをフレキシブルに割り振る必要が出てくる。いわゆるネットワークスライシングである。低遅延での高速伝送には十分なネットワークリソースを割り振ってもらえば、トラフィック処理に十分対応できるようになる。さらに、基地局内の構成を無線信号処理部(DU:Distributed Unit)と、コンピュータ処理と全く同様に行うデータ処理部(CU:Central Unit)の二つに分けるとデータを扱いやすい(図8)。

[図8]KDDIが実証実験を行う基地局の仮想化と、O-RAN準拠によるマルチベンターの接続可能性を実証実験
出典:KDDI
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