No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Expert Interviewエキスパートインタビュー

深堀 昂氏

── スムーズにスピンアウトしたようですが、ANAは航空機輸送サービス会社であり、光速の瞬間移動デバイスとは、ライバル関係になるような気がします。反対はなかったですか。

そもそも「光の速度で瞬間移動」という発想を理解してもらえませんでした。「何を考えているのだ。こんなものにお金をつけられるか」というレベルだったのですが、現実にXPRIZE財団からコンペのグランプリで250万ドルをいただいたことをきっかけに、理解され始めました。XPRIZE財団は、投資家などから成り立っているエコシステムで、インドのタタ財閥のレイタン・タタ氏、映画監督のジェームズ・キャメロン氏、グーグル創業者のラリー・ペイジ氏など、そうそうたるメンバーが評議会に参加しています。彼らがこの発想にお墨付きをくれました。

また、私自身、ANAという大企業の中にいて「業務外」のサービスを、これまでに2件立ち上げた経験があります。この「業務外」というのが大切で、興味があるからのめり込めたのでしょうね。新規事業担当者として、何か新規事業を作れと言われて作ったプロジェクトではありません。そして、その経験を活かして、部署を作り、最後にスピンアウトするまで自分なりのノウハウを持っていました。このあたりもスピンアウト成功の鍵だったように思います。ですから、このアバタープロジェクトのような業務は、他の大企業でも自分のようなプロセスを踏めば、きっとできると思います。

弊社は、世の中のスタートアップとは成り立ちが違いますが、志は同じだと思います。違うところは、大企業のブランドとリソース(有志たち)を最初から使える点です。また、他の大企業と違うところは、エアライン会社でのロボティクス事業だからかもしれません。全く違う分野だったからこそ、事業化が早かったのでしょう。ただ、アバターは移動手段としてのアイデアですので、ヘリコプター輸送から始まったANAとしては受け入れやすかったと思います。今は新型コロナが蔓延しているため理解されやすいのですが、当時は説明を丁寧にしなければならないという面はありました。

深堀 昂氏

── 移動手段のひとつとして、アバターを考えついたのは、どのようなことからでしょうか。

「人間とはどの部位を指すのだろうか」と、哲学的なことまで考え、やはり人間らしさは頭脳だろうということになりました。なぜなら義手や義足をつけたとしても同じ人間ですが、脳が入れ替わったら同じ人間にはなりません。脳イコール私なのです。

脳はコマンドを送るツールなので、私の脳が遠隔地にあるボディを動かせば、それは私になる訳です。身体は、脳からの電気信号を手足に伝え動かします。アバターは、インターネットを通じてコマンドを送り、受けたコマンドからアクチュエータを動かしているリモートロボットなので、自分の身体を動かすのと同じ仕組みです。ただし、その身体をいろいろな人が入れ替わって動かすことができるロボットです。つまり誰でも使えるロボットになります。

ですから、人ごとにロボットを揃える必要がありません。これまでのロボットは買った人しか使えませんでしたが、アバターロボットは、みんなで1台を使うことができるのです。

── 社内でスタートアップを設立する時に、その意義をどのようにして理解していただいたのでしょうか。

ANAはやはり普通の会社ですから、事業性、事業シナジー、収益性など、他の企業でやっている検討事項は、そのままやっています。裏技は全く使っていません。外部の有識者の応援は意図的にお願いしました。今、アドバイザーとなっている一橋大学名誉教授の石倉洋子先生、AIロボットの研究をされている早稲田大学の尾形哲也先生、株式会社アクセス創業者の鎌田富久先生、人工衛星の開発をされている東京大学の中須賀真一先生に加え、他の有識者の方々にも応援していただきました。ANAは宇宙ベンチャーも手掛けていますので、中須賀先生の応援はありがたかったです。

また、ANAには「やってみる」という企業風土がありますので、他の企業よりも早く進めることができたのかもしれません。例えば、社会でのリアルなテストにしても、とりあえず試してみるということが、事業化のスピードアップにつながります。

── アバターロボットを作る上で、数々の障害があったと思いますが、試作はスムーズでしたか。

事業化するまでに、何度も作り直しました。フィールドに実際に出してみて、何が必要か、どういう形状がいいのか、どういうビジネスモデルにすべきか、さまざまな要求を確認してやってきました。

通常の技術ベンチャーとも違います。通常の技術ベンチャーは大学の研究室から立ち上がったものが多いのですが、アバターロボットは技術シーズではなくサービスから始めました。今はCTOとか多数の外国人技術者を集めています。彼らはゴリゴリのロボット技術者たちです。普通の技術ベンチャーならヒューマロイドとか、二足歩行とか、人間に近づくようなロボットを作りたがるのですが、彼らがここに来たのは、テクノロジーだけでは世の中を変えることはできないことを良く知っているからです。

当社は、ロボット好きではない人が、当たり前のようにロボットを使うことを目指して、インフラにしようとしています。ただし、当社の技術陣は、ロボットに熟知した人たちばかりで、ANA以外から入社した人たちが大多数です。

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK