No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Expert Interviewエキスパートインタビュー

深堀 昂氏

── 社会インフラと呼んでいるのは、全ての業種、業界を対象としているからですね。

そうです。ロボットはあくまでもツールです。現在、スマホでかなりのインターネットのコンテンツにアクセスできていますが、10年後のブラウザは、どうなっているでしょうか。その時はスマホではなく、アバターインのブラウザが、それに取って代わっているかもしれません。

── 社会実装の端緒に就く動きがありましたらご紹介ください。

今、保有しているアバターロボットは300台くらいあり、病院や個人商店、自治体、水族館、大学など、さまざまな所に置いています。業種もさまざまで、どういう分野がいいのかテストしています。特定の場所でしか使えない専用のロボットではなく、例えば出産時に夫は分娩室には入りにくいのでアバターロボットに代わり妻を応援したいという要求もあります。いろいろな所に置いていることが重要です。

新型コロナの影響で、アバターロボットの需要が増えています。万が一の感染を考え、直接会うことができない90歳の祖父の家に置いてほしいという要求もあります。国際学会も、現在はオンライン講演となっており、それだけでは満足できないという不満があります。しかし、学会会場に数百台のアバターロボットを用意し、その中に入ればネットワーキングにより、参加者が互いにコミュニケーションをとるのに役立つはずです。

何か分野を絞らないとダメだという人もいるのですが、このアバターロボットは、何にでも使える汎用性を持っていますので、手を広げることが重要だと考えています。これまでのロボットは、ある分野に向けた特定のマシンでしたので、この点が大きく違います。

── この超汎用のアバターロボットを貸し出す場合、酒屋さん向け、百貨店向けなどのカスタマイズをパソコン画面からできるのですか。

サービスプラットフォームを作っていますので、決済やコミュニケーションなどの機能は基本的に備えており、これまで使ってみて、意外とカスタマイズする必要はありませんでした。例えば、ある商品を、手に取ってみたいという場合には、ロボットが取りに行くのではなく、店員さんに話して取ってもらえばよいわけです。その方が店員さんとの会話も進みます。階段を上りたいという要求があれば、ロボットを改良するのではなく、行きたい階に置いてもらえばよいのです。だからデパートでは、例えば4階に5台、地下1階に3台という具合に置いてもらう訳です。

弊社の24名のメンバーには技術系の人だけではなく、ロボットが特に好きではない人もいます。問題解決には女性の視点や、当たり前の視点が重要になります。これまでのロボットメーカーだと、技術系の人ばかりで、しかも大勢いる技術者の中には派閥さえもあるようです。

深堀 昂氏

── アバターロボットといえども、ある程度は自律技術が必要になると思います。センサーやマイコンをつけたり、衝突を避けたりなどすると、コストがかさみませんか。

必ずしもそうとは言えません。例えば、お掃除ロボットの「ルンバ」の値段を見ると、それほど高くないですよね。重要な所とか、リアルタイム性、ディープラーニング機能とか、電子回路基板はカスタムしていますが、ロボット自体は低コストで作っています。最も多い汎用的な応用に合わせます。

── 技術だけが良くても何の意味もないということですね。

その通りです。遠隔操作に関して最新の5Gで動かしましたという人もいました。しかし、5Gで動かすということに、今のところ意味はありません。光ファイバの中の混線状況をどうするかの方がむしろ重要で、5Gは田舎で普及するのかどうか、まだわからないからです。ただ、理化学研究所との眼球模倣型撮像カメラの共同研究は、通信環境が悪い所での画像伝送に使うためのアルゴリズムの開発を含みます。これは3Gでも快適に動かせるようにする技術を目指しています。遠隔診療や災害時にも医療行為ができるようにするシステムです。

── スタートアップとしてこれからの資金調達が必要となりますが、ANAに増資を求めるつもりですか。

今後はANAホールディングスだけではなく、外部資金の調達も事業を拡大していくうえで検討していきます。また、最近は米国のVC(ベンチャーキャピタル)やファンドが日本市場に来ていますので、事業を拡大するために良いパートナーがいれば、もちろん選択肢に入ります。

── 最後に、アバターロボットを使うことによって、人々はどのような幸せを得るのでしょうか。

あらゆる制限から逃れられることが最も大きいですね。例えば、生まれながらの身体的制限とか、無菌室から出られないとか、制約のある人がアバターロボットを使うことによって、健常者と同じように買い物をしたり、いろいろな場所に行ったりできます。離島で暮らしながら東大のキャンパスライフを楽しむとか、地方の農家から野菜を買うとか、こうしたことが可能になるのです。

場所や身体的制約が取り払われて、不必要な外出を制限されている中でも豊かな生活を過ごせることが最も大きく、これが幸せにつながると思います。

avatarin株式会社

深堀 昂氏

Profile

深堀 昂(ふかぼり あきら)

avatarin株式会社 代表取締役 CEO

2008年にANAに入社し、パイロットの緊急時の操作手順などを設計する運航技術業務や新たなパイロット訓練プログラム「B777 MPL」立ち上げを担当するかたわら、新たなマーケティングモデル「BLUE WINGプログラム」を発案。Global Agenda Seminar 2010 Grand Prize受賞。南カルフォルニア大学MBAのケーススタディーに選定。2014年より、マーケティング部門に異動し、ウェアラブルカメラを用いた新規プロモーション「YOUR ANA」などを企画。

2016年には、XPRIZE財団主催の次期国際賞金レース設計コンテストに梶谷ケビン(avatarin株式会社 取締役COO)と共に参加し、アバターロボットを活用して社会課題解決を図る「ANA AVATAR XPRIZE」のコンセプトをデザインしグランプリ受賞、2018年3月に開始し、現在82カ国、820チームをこえるアバタームーブメントを牽引中。2018年9月、JAXAと共にアバターを活用した宇宙開発推進プログラム「AVATAR X」をリリース、2019年4月、アバター事業化を推進する組織「アバター準備室」を立ち上げ、共同ディレクターとしてプログラムをリード。

2020年4月1日にANAホールディングス発のスタートアップとして「avatarin株式会社」を設立。

「アバターを、すべての人の、新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていく」をミッションに掲げ、新たな人々の移動手段や人間拡張手段として、「アバター」を社会インフラ化することを目指している。

https://avatarin.com/

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2024」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

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