No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Expert Interviewエキスパートインタビュー

深堀 昂氏

── アバターロボット「newme」にロボットとしてこだわったことは何ですか。

まず軽量であること、また、ぶつかったとしても人間に被害を与えないこと、しかも安価であることです。試作品からフィールドに出し、実証実験をしてきましたが、100万円以上のロボットは作りません。そして、コミュニケーションできることが、とても重要です。高齢者の方が、自身の息子さんや娘さんの顔を認識できなければなりません。表情で伝える情報は、とても豊富で重要です。また、入院しておられる患者さんでも、顔を出したくない場合は、患者さんの顔をイラストに変えることもできます。

ただ、研究には力を入れています。遠隔操作ロボティクスではエッジで使う場合の性能や機能を充実させる研究をしていますし、そのための人間の眼球を模倣した見え方の研究なども理研と共同で行っています。人間の認知や脳のアルゴリズムの研究なども、コアのロボット研究のために行っており、一般のロボット研究とは異なります。

── アバターロボットの使用感の実例はありますか。

アバターロボットを家庭に置くと、面白いことに最初は必ず倉庫に入れられてしまいます。接続されると嫌だと思われるからです。次にリビングに持っていくと、最初は見られないように壁を向くように置かれるのですが、2か月くらい経つと、リビングで人間に向かって話ができるように置かれます。3か月くらい経つと、20万円出すから置いていってくれ、となることがありました。そのうち、手が欲しいと要求されます。こういったステップは重要です。しかし、手をつけるとモータ駆動が必要となり、壊れないように保護するための機能を取りつけなくてはならず、コストは増加します。

アバターロボットは中に入る人の性格、つまり個性がそのまま出ます。これが価値になります。例えば東大生が家庭教師になることも、医師に問診を頼むこともできます。アバターになる人の価値を伝送していますので、ロボットという製品で利益を出すのではなく、入った人から受ける価値で、手数料をいただくというビジネスにしたいと考えています。三越や高島屋で、コンシェルジェの人と一緒に買い物をするという体験が価値になるのです。家族が遠隔地にいる祖父や祖母に話しかけること自体が価値となります。ですから、ロボットを売るわけではありません。ロボットを販売するビジネスモデルではなく、レンタル費用としていただき、ロボットを所有しない方が利用した際の接続料なども費用に含めます。

深堀 昂氏

── アバタープラットフォームとアバターロボットとの関係を教えてください。

好きなロボットに入れるということが、サービスのプラットフォームです。アバターはロボット単体です。ロボットだけではなく、電子回路基板からアルゴリズムやクラウドの仕掛けまで手掛けています。ストレスなく自由に安全にロボットを動かせるインフラにするために、プラットフォームが重要になります。この考えは、これまでのロボットにはありません。

これまでANAではフライトの運行計画を立て、安全に飛行させることが重要でした。私は運航技術の出身なのですが、お客さまにとって、どの機材を使うのかは関係なく、快適に目的地に到着することが重要なわけです。同様にアバターロボットも乗り物ですので、行きたい場所に準備されていて、操作していることを忘れるほど快適にコミュニケーションできるようにすることが、プラットフォームです。

ロボティクスに航空法の考えを持ち込むと面白いことができそうだと以前から思っており、弊社のロボットには、飛行機と同様に機体番号をつけています。自動運転の自動車は、がんじがらめのルールに縛られますが、飛行機は気象条件などが悪い場合は自動操縦しかできません。これは何年も前にルール化されています。ロボットも同様に動くセンサーですので、自動操縦の場合の運航技術が重要になってきます。

数年後には大手ロボットメーカーも、インフラ用のロボットを出してくるでしょうから、それに対抗するためには、サービス側のプラットフォームとして、ユーザーをしっかり確保しておく必要があります。ここは日本の大手が苦手な分野です。ロボットを作るなら、自動車メーカー以上の技術力を持った所はありませんが、彼らが参入するためには、市場ニーズを作っていかなければなりません。サービスプラットフォームは、メーカーが苦手な分野ですので、私たちがフォローするのです。

── 社会実装する時のインフラとなる場合のイメージを教えてください。

みんなが行きたいところのアバターロボットを検索して、その中に入るというイメージです。ヨドバシカメラに入る、三越伊勢丹の紳士服売り場で買い物ができるように入る、大分県の酒屋さんに入るなどの例があります。実はこの9月から、長崎県の酒屋さんと製麺屋さんにアバターロボットを設置し、買い物を支援するサービスを始めています(参考資料2)。

長崎県の小林甚製麺と小林酒店にそれぞれ1台ずつnewmeを設置し、アバターを通してそれぞれの店舗が扱う商品の買い物体験を2020年9月10日~10月9日で実施した。店舗側はECサイトのように事前に商品登録をする手間もなく、アバターを通じてお客様と直接やりとりを行い販売することが可能。
長崎県の小林甚製麺と小林酒店にそれぞれ1台ずつnewmeを設置し、アバターを通してそれぞれの店舗が扱う商品の買い物体験を2020年9月10日~10月9日で実施した。店舗側はECサイトのように事前に商品登録をする手間もなく、アバターを通じてお客様と直接やりとりを行い販売することが可能。

アバターは、電源を入れた途端、一気にオンラインで空間がつながるため、距離は不要になります。自分の好きなお店の店員さんと話をしながら、自分の好きなものを買うことができるのです。製麺屋さんのアバターに入り、動き回って実際にものを見ながら買い物をした後に、明太子が食べたいと思えば、次は明太子のお店のアバターに入って、どんな明太子があるのかを見てみよう、という買い方ができるようになります。

こうなると将来ECサイトは存在するのだろうか、と疑問に思います。現在のECサイトはすべて過去の地図、過去の写真を見て買い物をしています。それがアバターロボットでリアルタイムに変わるのです。Googleストリートビューでさえ、要らなくなります。アバターに入れば、今の街の様子が見えるからです。

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