No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Visiting Laboratories研究室紹介

街の未来の姿をシミュレーションするGIS

北詰 恵一氏

TM ── 都市計画には、地理情報システム(GIS)と呼ぶツールを活用しているそうですが、何を目的にした、どのような機能を持つツールなのでしょうか。

北詰 ── GISとは、コンピュータ上で利用できる高機能な地図です。GISは、3つの機能で出来上がっています。1番目は、データを入力するデータベース機能です。通常の地図情報の他に、戸籍情報など、自治体が行政の執行に用いる様々な情報を地図上に重ねて入れ込むことができます。2番目は、情報を出力する機能です。情報を分かりやすく、使いやすく表示します。通常の地図で表示できるのは一定領域だけに限られます。領域外の情報を見たい時には別のページに飛ばなければなりません。GISは、例えば地球全体をカバーする大きな図面を持っており、境界のない地図情報を表示できます。拡大・縮小も自在にできます。3番目は、これが一番大事な部分なのですが、解析機能です。例えば、住民が引っ越す理由を研究する際に、特定地域の5年後、10年後、20年後の人の流れを予測できます。そして、ある政策を行った場合と行わない場合、特定の場所に駅を作った場合など施策による人の流れの変化を解析します。

TM ── 北詰研究室では、GISをどのように活用しているのでしょうか。

北詰 ── 私たちは、GISを活用し、多様な条件設定の下で解析し、街の未来の可能性を知り、住民の望みや行政の意図に合った街づくりに向けた効果的で効率的な都市計画の方法論を探しています。住民が参加する街づくりのプロジェクトでは、具体的な施策とその効果を示す街の将来像を複数案見せて、それを参考にしながら議論しています。

TM ── ビデオゲームの中に、「SimCity」や「A列車で行こう」といった都市シミュレーションがありますが、それをずっと高度にしたもののように聞こえました。

北詰 ── よく言われますね。ただ、背後にあるメカニズムはGISの方がアカデミックなものではありますが…。

実施した公共事業が住民の幸せにつながったのか評価する

TM ── もう一つ、公共事業評価ツールと呼ぶツールも使っているそうですが、こちらは何に利用するものなのでしょうか。

北詰 ── 一言でいうと、税金の無駄遣いがないかチェックするツールです。道路や橋などを作る個々の公共事業の案件が、本当に住民の幸せや利便性の向上につながっているのか評価します。

TM ── 公共事業は、着手する前にはその必要性を議論して予算化し、実行しています。通常、実行した後の効果測定はしないものなのでしょうか。

北詰 ── 1997年の行政改革を契機に、2001年に政策評価制度が導入され、行政の効果を測定するためのガイドラインが定められ、地方自治体に適用されました。現時点では、全都道府県、ほぼすべての政令都市、61%の自治体が行政評価を導入しています。つまり、公共事業の効果測定をするようになったのは、そんな昔の話ではないのです。それ以前には、自発的に効果測定を行っていた先進的自治体はありましたが、全国的な評価制度はありませんでした。ただし、費用便益分析と呼ぶ公共事業の費用対効果を測る手法とマニュアルは、1990年辺りからありました。

TM ── 行政の施策は、予算には注目が集まりますが、決算が話題になることはほとんどありません。この点は、民間企業とは大きく異なります。通常、公共事業の費用対効果は、どのような方法で評価しているのですか。

北詰 ── いろいろな制度があります。私たちが今お手伝いをしているのは、定量的に評価できるものが中心です。たとえば、ある場所からある場所まで移動するのに、これまで2時間かかっていたが、高速道路を作ったことで30分に短縮できたとします。すると、1時間働いたら時給1000円は稼げるでしょうから、その事業には1人の移動当たり約1500円の価値があるとみなすことができます。年間1万台のクルマがそこを利用し、50年間使われたらどのくらいの価値に相当するのかといった計算をします。道路を作る際の費用は明確ですから、かかった費用と想定される効果を比較してその投資の妥当性を評価します。

ただし、公共事業の中には、その効果を定量的に評価できないケースも多々あります。ブランドイメージが上がったとか、安全に暮らせるようになったとかといった効果です。こうした項目は、多段階評価で各項目の達成度を定性的に評価します。また、あらかじめ公共事業の進捗目標を決めておき、その達成度で評価する方法もあります。

TM ── 何らかの客観性を持った評価をするということですね。でも、客観的には評価できない効果も多いのではないでしょうか。

北詰 ── 客観的に評価しにくい項目を合理的に評価する方法は、まさに研究対象となる部分です。現実的には、公共事業の実施前後で街の印象が、どのように変わったのか、住民からアンケートで聞くといった方法で評価するのが一般的です。国から補助金を受けて事業を行う場合には、その成果を報告する義務があるので、こうした方法で効果測定します。私たちは、その際に、住民に、どのようなことを聞けば合理的に効果を知ることができるのか考えています。

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