No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Visiting Laboratories研究室紹介

幸福を感じる価値観は時代と場所によって変化する

TM ── 都市計画で参考にすべき幸福度は、時代や場所によって変わらない普遍的な指標なのでしょうか、それとも環境の変化に応じて変わっていくものなのでしょうか。

北詰 ── 当然、環境によって変わっていくものだと思います。私たちが都市計画に取り組む際には、まず社会環境の変化を勘案し、目指す将来像を明確にして、その実現に向けた施策のコンセプトを決めます。掲げるコンセプトは、住民の価値観が反映されたものであることがとても大切です。何が何でも経済的発展を目指す、環境にやさしい街の実現、安全・安心を最優先にと、都市ごとに時代と土地柄を映したそれぞれ固有の価値観があります。都市計画で幸福度を参考にするのなら、幸福度も時代や土地柄を映した指標である必要があります。

TM ── コロナ禍によって、世界中の人々の価値観が変わってきました。都市計画のコンセプトも大きな変貌を遂げそうですね。

北詰 ── その通りです。ウィズコロナ(withコロナ)やアフターコロナの社会で、どのような都市を目指すべきか、多くの人たちが議論しているところです。

TM ── 先生の研究室では、公共事業評価ツールなどを活用して、どのような研究に取り組んでいくのですか。

北詰 ── 定量的費用便益分析や定性的評価手法など評価ツールは、かなり整備はされてきました。これらのツールを活用して、時代に合った社会課題の解決手法を探求したいと考えています。

例えば、これからの時代、少子高齢化が進んで自治体の財政はますます厳しくなっていくことでしょう。本当は、この事業は10億円かけた方が効果的なのだが、予算が足りず8億円しかかけられないというケースも増えると思われます。財政面を考慮して規模を縮小して、本当に住民のためになる成果が得られるのか。税収と公共事業への支出のバランスを取りながら、最大限の成果が得られる施策を導き出す方法を考えたいと思います。

また、住民にとっての幸せとは何なのか、住民自身も明確に分かっているわけではないのだと思います。そこで、住民が幸せな街のあり方を議論する場を用意し、さらには成功している他の都市の事例などを提示することで、どのような街が自分たちにとっての幸せな街なのか気づきが得られる方法を模索したいと考えています。

様々な要素が絡み合う都市計画、自由闊達な環境で斬新な視点を引き出す

北詰 恵一教授

TM ── 研究室では、学生を指導する際の方針のようなものはあるのでしょうか。

北詰 ── 基本的にほったらかしですね。学生に自主的に研究してもらうことが、方針といえば方針なのかもしれません。学生には、「何をやったらよいのか」などと聞かないで欲しいと常に語っています。「こうしたいのだが、できますか」とか「こうしたいのだが、ここができないので、なんとかして欲しい」といった問いかけを求めています。積極的にがんばる子たちにとっては自由度が高く、やりやすいとは思います。ただ、両刃の剣でもありますね。あまり熱心ではない子は、一年間ほったらかしになってしまうので、卒論の提出の1月末か2月頃になると、みんな血相を変えて書いています。

TM ── 先生の研究についてお聞きして、都市計画自体が、多様な要因を勘案して進める作業であると分かりました。よりよい都市計画の方法を考える際には斬新な視点、アイデアが重要になることが想像できます。そうした意味では、自由闊達な研究室の雰囲気が重要になるのかもしれません。

北詰 ── そうですね。学生から出たアイデアの中に、「そんなこと、私は気づかなかった」と感じるものが出てくることがありますね。

TM ── 北詰研究室から巣立っていった教え子たちにメッセージをいただけますか。

北詰 ── どんな時でも、自分の考えを明確に持っていてください。卒業生には、自治体の職員になった人、コンサルタントになった人、他にも不動産会社など様々な分野の職に就いた人がいます。しかし、例えば自治体に入れば、なかなか自分の意見を押し通して仕事をするのは難しいと思います。そうした中でも、自分が理想と考えるものを忘れることなく持ち続けて仕事をして欲しいと思うのです。一方、コンサルタントならば積極的に提案できる立場にありますから、自分の考えを形にした提案をどんどん出して欲しいと思っています。不動産会社に就職した人は、企画や運営で自分の意見をどんどん提案して盛り込んでほしいと思っています。

関西大学 環境都市工学部

関西大学 環境都市工学部

北詰 恵一教授

Profile

北詰 恵一(きたづめ けいいち)

関西大学 教授

1965年生まれ。1987年東京大学工学部土木工学科卒業、1989年東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻博士課程前期課程修了。同年、株式会社野村総合研究所に入社し研究員を務める。1996年東北大学大学院情報科学研究科に助手として着任後、同大学東北アジア研究センターに移籍し、2001年に博士(工学)を取得。2002年関西大学工学部に専任講師として着任、2015年より現職。

内閣府民間資金等活用事業推進委員会委員(同事業推進部会部会長)、大阪府建設事業評価審議会会長、大阪市建設事業評価有識者会議座長。2020年9月まで、吹田市水道事業経営審議会会長。

専門は、地域・都市計画、健康まちづくり、土地利用モデル、社会資本事業評価・マネジメント、官民連携(PPP)など。

現在は、地域愛着に着目した再生の方法論や社会資本事業への民間活力の導入手法を探求し、さらに健康と環境の好循環を生み出すまちづくりのあり方を研究、共創の拠点となる「リビングラボ」を立ち上げ、代表として実践を重ねている。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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